- 作者: 三浦しをん
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/09/17
- メディア: 単行本
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思いのほか、とても面白かった。
辞書づくりに精魂を傾ける人々の物語で、普段私たちが何気なく使っている辞書の背後に、いかにその製作に携わった人々の熱意と努力がこめられているか、読みながらはじめてほんの少しだけ一端を想像できるようになった気がする。
何か一つのものに打ちこむ、のめりこむ。
そのことのかけがえのなさを、あらためて考えさせられた。
また、イギリスや中国などでは、辞書の編纂は国家プロジェクトとして行われ、費用もふんだんに国から出てきた歴史があるが、日本では国の援助はほとんど何もない中で、私人や私企業が途方もない労力をかけて辞書をつくってきたという歴史は、本当に素晴らしいと思った。
それは日本の誇りの一つだと思う。
また、この小説の良いところは、それぞれの登場人物が、ちょっとした不安やさみしさを当初は抱えながら、言葉によって人とつながりたいと思い、多少ちぐはぐだったりぎくしゃくしながらも、言葉によって心を通わせて、あたたかくつながっていくところだと思う。
ちょっとユーモラスなその様子が、とても良かったと思う。
「記憶とは言葉」というのは本当にそのとおりで、言葉によって人は大事な記憶をすくい取っていくことができるし、またそれを他の人と分かち合うことができるのだろう。
それにしても、個人的に読んでいて、やっぱり少し主人公のまじめは若干うらやましいような気がする。
サブキャラの西岡もそんなことを思う箇所があるが、まじめが好人物で憎めない人物だけに、そのうらやましさは持っていきようのないもののような気もする。
もちろん、まじめも生きることに不器用で、良いことばりではなくて、大変なことも多かったことは読んでいてよくわかるのだが、やっぱりとても幸せな人間ではないか。
あぁ、香具矢さんのような女性が俺にも現れないかと、読みながら思えてならなかった。しかし、それにはまじめのように、一つのことにほとんど無償の情熱で打ちこむことが、先行すべきなのかもしれない。