グラントについて


グラント将軍は、南北戦争において北軍の名将として名高い。
南軍のリー将軍とは出自もキャラも対照的で、名家の出のリー将軍に対してグラントはごく普通の庶民の家で誕生日も正確にわからない。
士官学校で二位の成績だったリーに対して、グラントは士官学校での成績はいたって平凡だった。
品行方正なリー将軍に対して、グラントは若い頃は飲んだくれて、軍は自分には向かないと思い、一度除隊して農家に帰っている。


それが、南北戦争の勃発後、再び志願して戦地に赴くと、士官学校出の人材が不足しているので、反抗的な態度で皆扱いかねていた部隊を任され、その部隊を率いて連戦連勝。
妬んだ上司に不利な戦地に回されると、そこでも勝ち続けて功績をあげ、ますます妬んだ上官から飲んだくれを理由に除隊させられそうになった時に、リンカーン直々の抜擢で東部戦線に栄転となった。


そこで、リー将軍を相手に苦しい戦いを戦い抜き、ついに北軍の勝利を決定的にしたのだから、たいしたものだと思う。


語録を読んでいてなかなか感心したのは、こんなことを言っている。



Although a soldier by profession, I have never felt any sort of fondness for war, and I have never advocated it, except as a means of peace.
「職業として軍人だったけれども、私は戦争について好ましいものを一度も感じたことがない。平和への手段として以外は、戦争を支持したことも一度もない。」


あれほどの名将だったのに、いたってまともな感覚というか、たいしたものだと思った。


一方、


The art of war is simple enough. Find out where your enemy is. Get at him as soon as you can. Strike him as hard as you can, and keep moving on.
「戦争の技術とはいたってシンプルなものだ。敵がどこにいるか見つける。できる限り素早く敵を捕捉する。できる限り容赦なく敵を攻撃する。そして、それをどんどん続けるということだ。」


という言葉には、戦争をいたって冷徹にとらえている面もうかがわれる。


In every battle there comes a time when both sides consider themselves beaten, then he who continues the attack wins.
「どの戦いにも、双方ともに自分が負けたのではないかと思える時がやって来るものだ。その時、攻撃し続ける者が、勝者となる。」


という言葉も、なるほどというか、名将というのはこのような資質を持った人なのだろうと思った。


グラントはリンカーンの次の次の大統領になったが、南部再建は進まず、部下の汚職は相次ぎ、史上最悪の大統領とまで言われたそうだ。
もっとも、誰がやってもあの時期の大統領は難しかったろうし、気の毒なことだと思う。


グラントが魅力的な人物なのは、大統領になってもさほど気取らなかったところだ。


The friend in my adversity I shall always cherish most. I can better trust those who helped to relieve the gloom of my dark hours than those who are so ready to enjoy with me the sunshine of my prosperity.

「私が逆境にいた時の友人をこそ、私はいつも最も愛している。
成功の日の輝きを私とともに享受している人たちよりも、私が落ち込んでいた暗い時を助けてくれた人々をこそ、私は心底信頼できる。」


という言葉も、たぶん飲んだくれてダメ軍人だった時の友人のことを言っているのだろうか、とかく成功すると昔の友人を忘れがちなものなのに、良い言葉だと思う。



グラントは、大統領退任後、日本にやって来て、日光東照宮を観光したそうだ。
その時、天皇のみが通ることができる通り道を通るように言われたそうだが、自分にはもったいないと断って、一般と同じ通路を通って東照宮を拝観したらしい。
これもグラントらしい、奥ゆかしいエピソードだと思う。


ただ、二年ぐらい日本やヨーロッパなどを旅して帰ってきたら、投資していた事業が失敗してほとんど破産したそうである。
グラントは貧窮の中で回想録を書き、書き上げた数日後に死んだそうだ。
死後、その回想録はベストセラーになり、その印税で家族は再び豊かに暮らせたそうだ。


グラント将軍の回想録、今はWEB上で無料で全巻読める。
http://www.gutenberg.org/ebooks/author/527 
そのうち読んでみたい。


リーが非のうちどころのない人物なのに対し、グラントは凡夫のおかしさや悲しさを持った人物だったように思う。
南北戦争の頃の人物はキャラ立ちした人物が多いが、中でもグラントは面白い、ゆかしい人物の気がする。