ジャン・メイエール 「奴隷と奴隷商人」

奴隷と奴隷商人 (「知の再発見」双書)

奴隷と奴隷商人 (「知の再発見」双書)


豊富な図版をまじえながら、わかりやすく奴隷制奴隷貿易の歴史をまとめてあった。


この本によれば、古代ギリシャ・ローマの時代は、ほとんどの奴隷は白人だったらしい。
また、中世は、シェルムと呼ばれるガレー船の漕ぎ手として、誘拐されたスラブ人などが奴隷となることがしばしばあっていたそうだ。


しかし、そうしたそれまでの歴史のものと、大航海時代以降のアフリカの黒人を新大陸に連れて行き、奴隷として労働させるという黒人奴隷制は、規模も残酷さも相当に異なっていたようである。
この本も、主に黒人奴隷制について焦点をあてて書かれている。


綿花のみでなく、コーヒー・タバコ・砂糖の新大陸での生産は、黒人奴隷制に大きく依存していた。
砂糖をつくるための精糖圧搾機は極めて危険で、よく手をはさまれてケガをする黒人奴隷がいたそうである。


奴隷商人というと血も涙もない人間を想像するが、当時のイギリス・フランス・オランダなどの国々の奴隷商人は、ごく普通の市民だと本人も思っていたし、実際自分たちの社会ではそのような人が多かったそうである。
さまざまな理由によって、奴隷貿易は正当化されていたようだ。


反抗を試みたり逃亡する黒人奴隷は、しばしば悲惨な結果に終わった。
彼らの心の支えとなる一種の伝説として、ザンビア共和国という黒人の国や、50年以上ジャングルの中に逃亡した奴隷たちによってつくられた都市として存在したという、パルマレスという都市の物語が伝わっていたという話は、興味深かった。


また、ヴォルテールモンテスキューコンドルセらは、奴隷制を辛辣に批判したり諷刺していた。
ストウ夫人らの文学作品が大きな奴隷制廃止の世論をつくった。


フランスは、1794年にフランス革命でいったん奴隷制を廃止したが、ナポレオンの帝政時代の1802年にまた奴隷制を復活し、1827年にやっと奴隷貿易が禁止され、1848年に奴隷制度が廃止された。
ヴィクトール・ショルシェールという弁護士が、二十年以上かけてフランスの奴隷制廃止のために長く努力したそうである。


イギリスではウィルバーフォースらが中心となって、1807年には奴隷貿易が禁止、1833年奴隷制廃止が実現した。
アメリカでは、1812年奴隷貿易が形式的には禁止(実質はかなりその後も存在)、1865年にやっとリンカーンの手によって南北戦争の多大な犠牲の上に奴隷制が廃止された。


こうした歴史を見ると、本当に一朝一夕には動かないということと、四半世紀もの長きに渡ってこれほどの苦しみをどうしてこれほど多くの人が受けねばならなかったのかということを考えざるを得なかった。


また、この本を読んで驚いたのは、サウジアラビアでは1963年まで、モーリタニアでは1980年まで奴隷制が存続していたという話である。
つい最近まで、奴隷制はこの世に存在していた。


制度としては一応廃止されたが、現代でも形を変えた奴隷的な状況は多数存在し、この本では、一説には五千万人もの人々が、奴隷的な人身売買や拘束状況にあるということも書かれていた。


世界人権宣言の第四条には、明確に奴隷制の禁止が書かれている。


私たちが過去の歴史を無にしないために、そして今の世の中のありかたを考えためにも、奴隷制の歴史というのはきちんと踏まえておく必要があるのだと思う。
この本の監修の猿谷要さんが、「白人の、白人による、白人のための歴史」ではなく、別の視点から再構成された歴史をつくる時に、黒人奴隷制こそ最も重要な世界史の一つの軸だと述べているのは、本当にそのとおりだと思った。