絵本 「猫の事務所」

猫の事務所 (日本の童話名作選)

猫の事務所 (日本の童話名作選)


この作品をどう解釈すればいいのだろう。

宮澤賢治の原作なのだけれど、単純に言えば、「いじめ」がテーマの作品である。

竃猫(かまねこ)という、かまどの中で寝るのでやや汚れている、色が違う主人公の猫が、他の猫たちから職場の事務所でいじめられる。
ラストでは、獅子が突然現れ、竃猫へのいじめを怒り、事務所を解散させるところで終っている。

いろんな解釈があるようで、この獅子を宮澤賢治が信仰していた法華経と結びつける解釈もあるようである。

私は、昭和初期の歴史背景で言うならば、竃猫が農民や労働者で、他の猫が支配エリート層とその協力層で、獅子は天皇で、二二六事件みたいな錦旗革命、つまり上からの革命を望んでいるメタファーなのかなぁとも思った。
ラストの「半分獅子に同感です」という作者のひとりごとは、半分ぐらいはそうした動きに共感していたという宮澤賢治の心情を現わしていたのではないかと思えた。
実際、宮澤賢治国柱会という、石原莞爾らが属していたのと同じ、国家主義的な日蓮宗の団体の熱心な信者だった。

もちろん、そこまで大きな背景を考えなくても、単純に、当時(今もかもしれないが)によく見られた、職場や世間における、弱いものがいじめられ、強いものたちが残酷な醜い振る舞いをするということを、ただ描いたのかもしれない。

ただ、ひっかかるのは、ラストの「半分同感」ということである。
つまり、獅子による事務所の解散に、作者は半分同感でしかない。

できれば事務所内部で問題が解決がつければよかったのに、という意味かもしれない。
あるいは、この作品の最初の草稿で、登場人物のみんながかわいそうだという意味の文章でラストが結ばれているそうなので、竃猫のみならずこのような心ないいじめをしている他の猫もまたかわいそうな存在であるという視点から、半分同感という表現になっているのかもしれない。

竃猫だけでなく、他の猫も含めて、被害者も加害者もともにかわいそうだという意味で、事務所の解散は「半分同感」だとすれば、それでは、他にどのような解決方法があるのかという疑問も生じる。

この釈然としない、いろいろ考えさせるところが、この作品の面白いところなのかもしれない。

それになにより、この絵本は、黒井健さんの絵がすばらしかった。
よくこの作品を、このように素晴らしい絵本に仕上げたものだと思う。

単純に言えることは、自分たち自身の身も滅ぼすかもしれない、元も子もないことなのだから、いじめなどはやめておきなさい、というのが、宮澤賢治のメッセージだったのかもしれない。