- 作者: ジョン・ステュアート・ミル,朱牟田夏雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1960/02/05
- メディア: 文庫
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いやぁ〜、面白かった。
ミルは、正真正銘、義人であり、本物の賢者だと思う。
19世紀の雰囲気もよくわかるし、貴重な、人類最高の知性の精神史のひとつだと思う。
自伝、というわりには、特に前半はあんまり出来事はなくて、ひたすら自分の精神的・知的な遍歴、成長、変遷のあとを書いている。
英才教育をほどこされた早熟の天才が、一種のうつ病になって、いろんな試行錯誤や葛藤を経たあと、乗り越えていく姿も、とても貴重なメッセージを多く含んでいるようにも思えた。
人生の目的と幸福の関係、哲学的必然性について、感情の培養、などの論点は、とても面白かった。
あと、テイラー夫人との恋愛と結婚、テイラー夫人への賛美や自分の精神的成長や著作がいかに夫人に負っているかについて詳しく書かれているのを読んで、それほどすぐれたすばらしい女性とめぐりあって恋愛結婚できたのだから、途中ちょっと大変だったとしても、ミルは本当にしあわせな人だったのだろうなあと思った。
また、後半の、国会議員となってからの八面六臂の活躍、南北戦争では大半が南軍を支持するイギリスの世論にあって敢然と北軍を支持したことや、ジャマイカでのイギリス軍の虐殺行為を告発して大いに弾劾したことや、選挙法改正や婦人参政権のために努力したこと、などなど、知性と演説と文筆という、智慧の力だけを武器に、当時のイギリスにおいて義のために闘い、多くの成果をあげたことは、本当にすごいと思う。
稀に見る賢者・義人であったと思う。
人たるもの、ミルのようでありたいものだ。
あと、ミルは、一般的には自由主義・リベラリストとして分類されることが多いけれど、もちろんそうでもあろうけれど、自伝によれば、テイラー夫人の影響によって社会主義者となったとも書かれている。
もちろん、その社会主義というのは、後世のソビエト的なものとはぜんぜん違ったのだろうけれど、今日のネオリベラリズムのようなものとはぜんぜん違うものをミルがめざしていたのも事実だろう。
ミル的な自由主義・社会主義というものを、もうちょっと後世の今も大事に配慮・考察した方がいいのかもしれない。
また、ミルが小さい頃の思い出で、「ヘラクレスの選択」ということを書いていて、私も小さい頃ギリシャ神話を読んでて、「ヘラクレスの選択」には大いに鼓舞され感銘を受けたことを思い出した。
人たるもの、安易な快楽よりも、険しくても義のために生きる道をこそ、ヘラクレスやミルのように選択すべきなのだろう。
さまざまな大事なものを思い出させてくれる一冊だった。