- 作者: 細川護熙
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/01/01
- メディア: 文庫
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細川護煕さんが、いろんな古典のことばを選び、ゆかりの地を旅し、写真とともに綴ったエッセイ集。
面白かった。
細川さんは、趣味人・教養人としてはすぐれているのだろうと思う。
いくつか、胸に響くことばがあった。
池大雅の、
「一成らば一切成る」
(一成一切成)
という言葉は、なるほどなぁ〜っとうなずく。
たしかに、何か一つを極めることが、一切を開く鍵なのだろう。
弘法大師の、
「詩を作る者は古体を学ぶを以て妙と為すも、古詩を写すを以て能と為さず。
書もまた古意に擬するを以て善と為すも、古跡に似たるを以て巧と為さず。」
という言葉も、なるほどな〜っとうなずかされる。
「傍輩をはばからず、権門を恐れず」(北条泰時)
「それ三界はただ心ひとつなり。
心もしやすからずは象馬七珍もよしなく、宮殿楼閣も望みなし。
今、さびしき住ひ、一間の庵、みずからこれを愛す。」(鴨長明)
「此一筋につながる」(松尾芭蕉)
などの言葉も良かった。
また、新渡戸稲造の、教育の目的は品性にある、というのもそのとおりと思う。
広瀬淡窓の「咸宜園」の「咸宜」とは「みんなよろしい」という意味で、学歴・年齢・身分の三つをまずとりはらう「三奪」を教育方針にしていたというのも、へえ〜っと感心した。
正受老人の、
「今一日暮す時の努めをはげみつとむべし。
いかほどの苦しみにても、一日と思へば堪えやすし。
楽しみもまた、一日と思へばふけることもあるまじ。
…一日一日とつとむれば、百年千年もつとめやすし。」
「一大事と申すは今日只今の心なり。
それをおろそかにして翌日あることなし。」
という言葉も、あらためて味わい深いなぁと思った。
幸田露伴の、
「全気全念でことをなす」
というのも、とても大事なことと思う。
西田幾多郎が、
「君は生死の関頭に立った時に何を思うか?」
とよく人に質問したという話も興味深かった。
私ならば、御念仏と思う。
これらの良いことばを知り、良い趣味を持って、気ままに晴耕雨読に生きる細川さんは、殿様や華族としては、とても向いている人なのだと思う。
ただ、吉田兼好の「諸縁を放下すべき時なり」という言葉を好み、徒然草を愛読する方が、不捨軛の精神を必要とする政治家には元々なるべきではなかったような気がする。
おそらく、人としては趣味の良い文化人として良い方なのかもしれないが、隠遁を好む文化人は、もともと政治には直接携わるべきではないのだろう。
とはいえ、この本は、良い本だったとおもう。