小泉純一郎 「万機公論に決すべし」

万機公論に決すべし―小泉純一郎首相の「所信表明演説」

万機公論に決すべし―小泉純一郎首相の「所信表明演説」

この本は、今から九年前、国民の圧倒的な支持の中で発足した当時、小泉さんが国会で行った所信表明演説を本にしたものである。

今読み返してみると、いろんなことを考えさせられる。

実際の小泉政治の善し悪しは別にして、首相の所信表明演説の中では、たしかに個性的で見事なものだったのかもしれない。
短い断定調の言葉を歯切れよく積み重ね、明確な意思とメッセージを打ち出している。

当時、多くの人は、「新世紀維新」や「恐れず、ひるまず、とらわれず」などのメッセージを小泉さんが明確に示したことに、共鳴し、多くの期待をかけ、支持したのだろう。

需要追加型政策をやめることと、不良債権処理を明確に打ち出したことは、確かに小泉さんの功績であり、実際にそのことに関しては小泉改革は成果があったと言えるのかもしれない。

ただし、今読むと、こんなことを当時言っていたのかといささか驚くこともある。

たとえば、

「明確な目標と実現時期を定め、保育所の待機児童ゼロ作戦を推進し、必要な地域全てにおける放課後児童の受入体制を整備します。」

や、

普天間飛行場の移設・返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告の着実な実施に全力で取り組み、沖縄県民の負担を軽減する努力をしてまいります。」

といった言葉を見ていると、これらの問題に小泉さんは所信表明演説のあと、あれほどの長期政権なのに、いったいどれだけの成果をのこしたのか、甚だ疑問になってくる。

これらの問題で今現在民主党政権が苦しんでいるが、自民党ははたして民主党政権を批判する権利があるのかという気がしてくる。

また、「公務員制度改革」や「情報公開」についてもこの所信表明演説では言及されているが、それらが今もって十分達成されてないからこそ、民主党現政権が四苦八苦しているということなのだろう。

特殊法人公益法人も、結局ほとんど実体には手をつけられず、独立行政法人として名のみ変わって残ったからこそ、今民主党政府が事業仕分けで取り組んでいるわけで、小泉改革とはいったいなんだったのだろうという気がしてくる。

さらに、当時多くの人々が感動し、歓呼の声をあげた「米百俵」の話は、今から振り返るとどうなのだろう。
たしかに、企業は自助努力によって、後世に米百俵を誇ることができるような体質改善を行った場合もあるかもしれない。
しかし、国家としてみた場合、本当に後世に誇るに足るものを、どれだけ小泉政権、およびそのあとの同党の政権はのこすことができているのだろう。
庶民ばかりが痛み、自民党や大企業や官僚のみは肥え太ったものだったとしたら、なんとも暗澹たる気がしてくる。

とはいえ、何もかにも小泉さんだけでできるわけでもないだろうし、不良債権処理など評価すべき点はあるとは思う。

「自律と自助」と「共助」の精神をはっきりと打ち出し、呼びかけていることは、今読んでも、いろんなことを考えさせられる。
実際の小泉改革はこのうち前者に傾斜し、最近の鳩山首相は後者を主に打ち出しているようであるが、政権交代をしながらも両党がどちらも大事にしてあまり極端にならないことが、今後は望まれることなのかもしれない。

小泉政治について、冷静に評価すべき点と批判すべき点を見定めることが、特に今の日本にとっては重要な事柄と思われるが、そのためにも、本書はあらためて十年経ってこそ冷静に読まれ検討されるべきものかもしれない。