野田首相のもとで財政再建を進めて欲しい

■史上最低内閣・横暴…3陣営登用ゼロ、離党も
(読売新聞 - 10月02日 08:01)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20121002-OYT1T00161.htm?from=ylist



呉子にこんな一節がある。
(治兵第三篇)


「それ善く将たる者は、漏船の中に座し、焼屋の下に伏するが如し。智者をして謀るに及ばず、勇者をして怒るに及ばざれば、敵を受くること可なり。故に曰く、兵を用うるの害は、猶予、最大なり。三軍の災は狐疑に生ず。」


つまり、


「良いリーダーとは、水漏れで沈みゆく船の中にあたかも座っているような、
あるいは、あたかも火事で焼けている家の中にいるような、
それぐらいの危機感を持っている。
それぐらいの危機感を持って、命がけで戦うリーダーであれば、たとえ敵がどれほどの頭脳の持ち主で謀略をはりめぐらしてきても、敵がどれほどの勇気を持って果敢に攻撃してきても、どれもすべて受けて立ち、防ぎとめ打ち破ることができる。
それゆえにこう言える。
軍事行動を起こす際の最大の障害は、危機感を持たないがために、いつまでものんびりとかまえてぐずぐずとすることです。
全軍が大打撃を受けるような事態は、ためらって何もせずにいつまでも決断できないことによるのです。」


という意味だろう。


私は先日、民主党の代表選の立会演説会にも行ったし、自民党の総裁選の街頭演説も聴いたが、町村さんを除く八人の話を聞いた中で、財政への危機感を語っていたのは、野田さんだけだった。


今の日本の国債財政赤字には、水漏れで沈みかかる船、焼けている家の中、ぐらいの危機感をもって臨まないことには、どうにもならないことだろう。
しかし、この危機感を持つ人は本当に少ない。


このままだと、2020年代には国内での国債消化ができなくなり、日本経済を破綻させる「時限爆弾」だという指摘もある。
そもそも2033年には年金制度も破綻が予測されるという。
にもかかわらず、今までずっと日本はのんびりと構えて、国債をむやみに発行してきた。


正直な話、国債に真剣な危機感を持って財政規律をもたらそうとした内閣は、この二十年のうち、橋本・小泉・菅・野田内閣ぐらいである。


小渕政権や麻生政権、鳩山政権では、基本的に財政規律はほぼ無視され、巨額の国債が発行された。
経済状況などのやむを得ない事情もあったとはいえ、財政上は大きな負担をその後に残すことになった。


もっとも、財政規律を重視したとはいえ、橋本内閣は思う方向にはいかず不良債権や企業倒産の連鎖を防げず、首相官邸の機能強化をしたぐらいで退陣せざるを得なかった。
小泉内閣は、不良債権処理を進め、国債発行額の伸びを確かに抑えはしたが、そのために社会保障圧縮を進め、大きなひずみを社会にもたらした。


菅内閣は、社会保障を持続可能にすることと強い財政の両立を追求したが、311の対応に忙殺され、しかも野党のみならず党内からの足の引っ張りがすさまじくて短命政権に終わった。


野田政権は、菅政権の税と社会保障の一体改革を引き継ぎ、消費税増税社会保障関連のいくつかの法案を成立させた。
それは、ここ最近の政権では、めずらしく、冒頭の呉子のような危機感を持ち、「決められる政治」を発揮したと言えるのかもしれない。


ただし、それは本当の財政再建社会保障の構築における、まだ道半ばの一歩に過ぎないわけで、これで危機感をなくしてしまっては困る。


野田首相には、率直に、今の日本の財政の置かれている状況を国民に繰り返し繰り返し説明し、呉子の言葉のような危機感を持ってやってもらわないと困る。


このような状況下で、自分の派閥にポストをもらえなかったなどと文句を言う民主党の内部の政治家たちは、あまりにも国家のことを考えな過ぎるというか、情けなさ過ぎる。
何か文句を言う暇があるならば、閣僚以外でも政治家として首相に協力できることはいくらでもあるのだから、財政や社会保障の問題で全力を尽くして国家社会のために努力して欲しいものだ。


野党も、亀井さんのように国債を百兆円分新規に発行して財政出動をするだとか、自民党の十年間で二百兆円分土建につぎこんで行うという国土強靭化計画などは、とても、今の日本が水漏れで溺れる船や火事の家のようだという危機感は皆無なのではないかと思われる。


野田改造内閣について、随分と揶揄や文句が多いようだが、私は呉子の冒頭の言葉のような危機感を全く持たない指導者たちよりは、まだしもこのような危機感を持っている野田首相の方が、当面の日本の指導者としてはふさわしいと思わざるを得ない。