秋山香乃 「群雲に舞う鷹」

群雲に舞う鷹

群雲に舞う鷹

とても面白かった。

日露戦争の時に、第二軍を率いた奥保鞏将軍が主人公の歴史小説
旧幕軍の小倉藩出身というハンディを背負いながら、己の卓越した実力によって陸軍大将・元帥にまで成った奥保鞏のことが、実に深みのある筆致で描かれていて、本当にいい作品だった。

奥保鞏は、本当に立派な人物だったのだと思う。
男ならば、このようにありたいものだと思った。

にしても、日露戦争の時の総司令部の愚かさと、その誤った情勢判断や命令のために苦しむ現場の奥保鞏乃木希典ら現場の将軍の苦悩や努力というのは、読んでいてなんとも言えぬ気がした。
よく明治の日本は賢く、昭和の日本は魔法にかかったように愚かになった、みたいなことが言われるけれど、べつに大本営が急に愚かになったわけでもなく、明治の時も総司令部はしばしば愚劣だったのを、奥や乃木らの超人的な刻苦によってなんとか辛勝したというのが明治というものだったのかもしれない。

南山の戦、得利寺の戦、遼陽会戦、奉天会戦など、どれも奥がいなければ、日本はとても勝ちを得ることはできず、日本はひょっとしたら破滅的な事態に陥っていたかもしれない。
奥や、第二軍の将兵の苦難や苦悩を、後世の我々も忘れない方がいいのかもしれない。

良い作品だった。
最近読んだ歴史小説の中では、最高の作品だったと思う。