坂野潤治 「大日本帝国の民主主義」

坂野先生の歴史観が、わかりやすく提示されてあり、あらためてなるほど〜と思いながら読んだ。

坂野先生が言うには、戦前の日本も多くの時期において象徴天皇制が提示され、実践されてきたのであり、民主主義は何も戦後に始まったものではなく明治からあった、とのことである。

明治十四年の福沢諭吉らが提案した交詢社私擬憲法案は、内容的に戦後の憲法とほとんど変わらなかった。

井上毅大日本帝国憲法は、福沢の交詢社憲法案を換骨奪胎し、福沢は政権交代可能で国会に責任を負う政党内閣による統治を構想していたのに対し、井上毅はそこは骨抜きにして天皇に責任を負い天皇に各閣僚が直結する大日本帝国憲法をつくった。

しかし、伊藤博文井上毅憲法を実際に運用するにあたっては内閣を重視する解釈を出し、その伊藤の解釈を根拠にさらに解釈を進めて事実上の政党内閣・議会政治を根拠づけたのが美濃部達吉天皇機関説で、美濃部説はいわば解釈改憲だったという。

また、日中戦争頃までは、日本には言論の自由もわりとあったし、選挙も行われ、いわば議会制民主主義が存在していた。
それが日中戦争が激化した南京陥落あたりで終ってしまった。

という話だった。

なるほどな〜っと思う。

今更言っても仕方がないが、明治十四年の時点で、福沢諭吉らの交詢社私擬憲法案が通っていれば、国会に責任を負う内閣が軍や外交も掌握し、政権交代可能な政党政治も早期に確立して、その後の日本の破局や悲劇はだいぶ回避できたかもしれない。

その他にも、なぜ日本になかなか二大政党制が根付かないか、とか、なぜ象徴天皇制の先にまでいかないのか、とか、もし1941年の四月の選挙が、一年延期されずにいれば、など面白い提起がいろいろされていた。

軽く、数時間で読める本なので、多くの人にも試しに読んで欲しい面白い本と思う。