- 作者: 福田和也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 文庫
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面白かった。
いろいろ考えさせられた。
近代という、合理性や組織や功利が重んじられる時代において、ひたすら「徳義」を追求した乃木の姿と生き様は、批判することはたやすいだろうけれど、私は何かとても忘れてはならない大事なものがあるような気もする。
この本のラストで、徳富蘆花が、乃木の殉死を知って、「無理はない、もっともだ」とつぶやいた、というエピソードと、蘆花が大逆事件において幸徳秋水の擁護と死刑批判をしたことを付記して、明治という時代の広さを福田が述べていたのには、しびれた。
私も、幸徳秋水も忘れてはならない立派な人物だったのと同様に、乃木希典も忘れてはならない立派な人物だったように思う。
徳富蘆花のように、明治の頃の多くの日本人はそのように受けとめていたし、幸徳も乃木も忘れていったところに、昭和の失敗のすべてではないとしても幾分かの原因はあったのかもしれない。
私は必ずしも明治時代をそんなに美化したり賛美するのは好きではないし、明治の薩長閥の指導者たちというのもあんまり好きではないのだけれど、乃木希典だけは、なんだか心ひかれるものを感じる。
しかし、明治でもすでに稀有だったのだから、もはや平成やそれ以後の時代には、良くも悪くも乃木将軍のように質素と徳義に生きようとする人は現れないのかもしれない。
現代人の多くには、乃木将軍の精神などはまったく理解不可能なものかもしれない。
乃木将軍は、吉田松陰のかなり近い親戚のようで、間接的にとても影響を受けていたようである。
吉田松陰にある品格や徳義や高みが、乃木将軍ぐらいまでは生きていたのだろう。
時代が下り、品が下るのは仕方がないが、今の時代と、明治とを比べると、なんというか、暗澹たる気持ちにさせられる。
徳義や風格というのは、やはり大切なものではなかろうか。