長屋王残照記 (1) (中公文庫―コミック版 (Cさ1-16))
- 作者: 里中満智子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1998/03/01
- メディア: 文庫
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漫画だけど、よくできていた。
ラストは、思わず涙が出そうになるぐらい、胸を打たれた。
長屋王も、さぞ無念だったろう。
無実の罪で、家族ともども死ななければならない長屋王の無念さは、いかばかりだったろう。
歴史には、長屋王のほかにも、数多くの気高い魂を持ちながら、無念の死をとげた人物がいっぱいいたのかもしれない。
鑑真和上が日本に来ることを決意した理由は二つあったそうだ。
ひとつは中国の高僧・慧思が日本の聖徳太子に転生したという伝承が中国でも広まっていたらしく、その伝説にとても興味があったらしいこと。
もうひとつは、長屋王がかつてたくさんの刺繍を中国に送り、高僧に日本に来て欲しいというメッセージが見事に織り込まれていたそうで、それに胸を打たれたことがあったかららしい。
だとすれば、鑑真が来日してくれた大きなきっかけに、長屋王はなっていたわけで、鑑真和上がいなければのちの日本仏教がありえなかったことを考えれば、長屋王も日本仏教の大きな大きな恩人のひとりだったと言えるのかもしれない。
人生はままならないことも多いし、時にとても不条理な目に遭うこともあるけれど、たった一つでも、後世に大きな光を投げかけることのきっかけになれば、その人の人生には大きな意味があったことになるのかもしれない。
印象深いのは、長屋王を無実の罪で死に追いやった藤原四兄弟が、その後ほぼ同時期に四人とも疫病で死んでいることだ。
長屋王のたたりだったのだろうか。
それとも、後ろめたい気持ちが、彼らの免疫力をおのずと弱めてしまっていたのだろうか。
藤原家って、けっこう汚い策謀を張り巡らすわりには、長屋王の時も、菅原道真の時も、意外と神経が細い気がして、そこが人間らしいというか、案外憎めない気がする。
四兄弟の妹の光明皇后など、とても仏教の興隆や福祉に力を入れているけれど、それも兄弟の罪滅ぼしの気持ちもあったのだろうか。
長屋王や、藤原一族や、孝謙天皇や、あの時代を彩る人は、それぞれに強烈な個性と思惑があったのだろうけれど、誰も不思議ととても教養があって、しかも仏教への篤い崇敬の気持ちがあったことには感心させられる。
現代の権力者達は、あの時代の人たちに比べて、何かすこしでも後世に資する光をのこすことができるのだろうか。