菅伸子 「あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの 」を読んで

あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの (幻冬舎新書)

あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの (幻冬舎新書)



とても面白く、わかりやすい文章で、庶民出身の夫婦が思いもかけず総理公邸で暮すようになって直面した生活面での戸惑いや興味深いエピソードをユーモアとともに描いてある。


そして、伸子夫人と菅首相の若き日々の、お金がない中で身近な生活の問題から土地問題に取り組む市民運動を始めたり、市川房江さんの選挙を応援したり、大学祭でサンドイッチをつくって売ったり、塾講師をしてそれらの資金をやりくりしてたいこと、などなど、生き生きと描かれていた面白かった。


子どもが不登校になったことも率直に書かれており、その時の父親としての菅さんの対応の仕方もとても立派だと思ったし、「子どもは待つしかない」という伸子夫人と菅総理の至った境地も、なるほどなーっと感心させられた。


政策についても、庶民の感覚から、わかりやすく伸子夫人が菅さんに質問し、議論してきたことが書かれてあり、とても興味深かった。
伸子夫人が、消費税については食料品非課税を強く主張しているところなど、とても共感させられた。


また、「最小不幸社会」についての以下の記述も、とても共感し、面白かった。


<<
最小不幸社会」って何?


菅は、特定の思想とか主義への強い思い入れはない人です。


ですから、「現実主義」とか「その場対応」とか、「バックボーンに思想がない」と、批判されますが、私は政治というのは「その場対応」でどうにかやっていくしかないと思います。


政治家が何か高邁な理想などを掲げると、ろくなことにならないようにも思うのですが、いかがでしょう。


菅が言う「最小不幸社会」というのは、そういうことでもあるのです。


「幸福は、人によってさまざまだ。ある人にとってはお金を儲けることが幸福かもしれないし、好きな音楽を聴いているのが幸福という人もいるし、自然のなかで過ごすのが幸福な人もいる。


国とか政治というのは権力だから、その権力が、『これがあなたの幸福だ』と押し付けることなんてできないし、すべきではない。


では、政治の役割は何かといったら、不幸を取り除いていくことだろう。


不幸は、貧困とか病気とか、戦争とか災害などの形で、誰の身にも襲いかかる。


その不幸が生じるのを防ぐのも政治の仕事だし、起きてしまった不幸を少しでもやわらげていくことこそが、政治家の仕事なのではないか」


「最小」で「不幸」とマイナスのイメージが重なるので、なんだか夢も希望もないみたいに聞こえますが、マイナスにマイナスをかけるとプラスになりますね。


ですから、「最小不幸社会」というのは、すごくよい社会だと思うのですけれど、ちょっと分かりにくいのかもしれません。
「不幸の最小化」と言ったほうがよいかもしれませんね。


大きな政府」路線だと批判する人もいれば、その逆に「新自由主義」と批判する人もいて、戸惑います。
よく理解していただければと思います。
<<
(同書、159〜160頁)



とても共感させられる一文と思う。


実際、菅総理は、総理になってから今までの一年余り、この思いから、着々と動いてきたと思う。


子育て支援、若者雇用対策、高額療養費の見直しによる負担軽減、社会保険制度における低所得者対策の強化、資産課税の強化で資産再分配機能を回復などが明確に打ち出した画期的な「社会保障・税一体改革成案」もそうだと思うし、
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/pdf/230630kettei.pdf


湯浅誠さんを起用した「一人ひとりを包摂する社会」特命チームの立ち上げもそうだったろう。


諫早湾堤防水門の開門の決断や、硫黄島の遺骨収集、B型肝炎基本合意なども挙げられる。


そして、何より、東日本大震災という未曾有の事態にあって、震災後四分後には官邸対策室をつくり迅速な指示を出し、自衛隊十万人規模の出動も決めて、二万六千人以上の人々を救出させた。
未曾有の原発事故についても、東電を叱咤激励して危機に取り組み続け、浜岡原発の停止の決断や、総理大臣として脱原発を明確に提起してきた。


たしかに、伸子夫人のこの本のタイトルに、菅総理は上記のような形で応えてきたのかもしれない。


男性の魅力や器量はある程度、どのような女性を妻に持つか、どのような女性に愛され信頼されるか、そしてどのような女性を愛するかで決まる部分もあると思う。


オバマ大統領のミシェル夫人も素敵な方だと思うが、伸子夫人も本当に立派な素敵な人だなあとこの本を読みながら思った。
そして、伸子夫人を通して語られる菅さんの素顔も、とても魅力的で、信頼できる人物に思える。


マスコミのネガキャンや悪意の報道ではなく、菅総理の最も身近な人による菅総理の人間像として、この本はとても貴重なものだと思うし、そのことを離れて単純に読み物としても、とても面白いのではないかと思う。