菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言 (90年代の証言)

菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言

菅直人 市民運動から政治闘争へ 90年代の証言


菅さんが首相になる前、2008年に出た本。


今や日本の首相となった人物についてきちんと知っておこうと読んでみたのだが、とても面白かった。


とても現実的で、柔軟な人物なのだなあという印象を強く受けた。


若い頃からその姿勢は一貫している。
学生運動市民運動に携わってきたと言っても、全くと言っていいほどイデオロギー的なところはない。
むしろイデオロギーの拒否が一貫している。


当時とても影響力の強かったマルクス主義には、菅さんは終始懐疑的で距離をとっている。
幸福というユートピアを強制的につくるのではなく、政治の役割は個々人が自由に幸福を追求する外枠をつくることだと明確に述べているところはとても興味深かった。


学生時代も、永井陽之助高坂正堯など現実主義の論客から学んでいたというエピソードも興味深かった。


若い時の市民運動というのも、東京の土地の価格の見直しという、非常に現実的なテーマに取り組んでいたそうである。

社会党の解体を一貫してめざし、社会党のような政権をめざさない万年野党に対して手厳しく批判し、政権交代可能なヨーロッパ型社会民主主義政党を日本につくり、二大政党制をめざすというビジョンを若い頃から一貫して持ち、取り組んできたということも、この本を読んでよくわかった。


自民党社会党もダメで、なんとかあたらしい市民政治勢力社会党を解体してつくり、新しい野党第一党をつくる、というテーマを菅さんが若い頃から目指し、さきがけを経て、民主党の結党と育成に向けて駆け上っていく過程は、とても興味深く、面白かった。
自社さ連立政権についても、菅さんの口を通して語られる回想は、とてもリアルで、興味深い話が多い。

薬害エイズ問題に取り組んだ時も、菅・枝野コンビだったんだなあと、この本を読んでいてあらためて思いだした。
薬害エイズ問題においては、官僚から情報を出させることは本当に大変だったようである。


また、小渕政権当時の1998年の金融国会についての菅民主党や小沢自由党の動きについての回想は大変興味深かった。
政策重視の菅民主党と、政局重視の小沢自由党と。
今、小沢さんの熱烈な支持者となっている人々は、この時の金融国会のことはどれだけ覚えているのだろう。
あるいはそもそも知っているのだろうか。
菅さんが言うように、この時に金融早期健全化法案がきちんと成立していれば不良債権の処理が五年は早く進んだと思えるだけに、なんともあの時の自由党の動きは残念に思える。


菅さんが、小泉さんについて、人間としてはけっこう好感を持っていること、政治主導についても高く評価していること、しかしワンフレーズポリティクスの説明のいいかげんさと政策の中身については手厳しく批判していることは興味深かった。
つまり、人間としては好感もあり、政治の形式(官僚に対する与党主導)は共感するが、内容については異があるということだろう。
全否定でも全肯定でもない、その姿勢は、共感させられるものがあった。


さらに、末尾の方で、菅さんが、日米同盟を重視し信頼関係を強めることを述べていること、だが日本の戦後外交に主体的な発想が乏しかったことを指摘し、もう少しマルチの関係をつくっていく方向にジワッ、ジワッと進めていくことが必要、と述べている(288頁)ところはとても興味深かった。
要するに、急激な反米路線でもなく、かといって対米追従でもない、日米同盟を堅持しながら徐々に多角的な関係を他の国とも構築していくということだろう。


これからやりたいこととして、


1、 バイオマスエネルギー
2、 科学技術の振興
3、 政権交代


を挙げていたことも興味深かった。
3はその後実現し、2についてはたしかに予算を大幅に首相になったあと増やして実現させている。
1は、奇しくも、震災後、これからの課題でもある。


菅さんには、いつか、この本には書かれなかったその後のこと、つまり政権交代実現と、鳩山政権、そして自分自身の政権での出来事の回想を、このように詳細にのこして欲しい。


今の日本の首相がどのような人物か、詳しく知るために、読んでおいて損はない、興味深い本だと思う。