山県大弐のことば

山県大弐のことば

「政をなすの要は、務めてその利を興し、務めてその害を除くに過ぎざるなり。
利なるは、己を利するの謂いにあらず。
天下の人をして咸(みな)その徳を被り、その利に由らしめ、而して食足り財富み、憂患する所なく疾苦する所なく、中和の教え衆庶安んずべく、仁孝の俗比屋封ずべし。それこれを大利と謂うなり。
そのこれに反すれば、すなわち害なり。
害除かれずんば、すなわち利興らず。
故に古の善く国を治むる者は、務めて利を興し務めて害を除く。
而る後、民これに由る。
これを興すの道、如何。
曰く、礼楽なり、文物なり。
これを除くの道、如何。
曰く、政令なり、刑罰なり。
それこの二者は、惟(ただ)君みずから率い、惟君みずから戒め、而る後民これに従う。」



「故に今の民、身は日に労し、財は日に空し。
ここを以て断然として乃(すなわ)ち謂う、
「耕は食に益なく、織は衣に益なし」と。
士もまた曰く、「学は身に益なく、業は家に益なきなり」と。
乃ちその事を廃して、惟(ただ)奇邪にこれ従い、譸張これ務む。」(天民 第六)



「而して志、その利を興すに在れば、すなわち放伐もまた且(まさ)に以て仁と為すべし。
他なし、民と志を同じうすればなり。」