書経

書経 上 新釈漢文大系 (25)

書経 上 新釈漢文大系 (25)

書経 下 新釈漢文大系 (26)

書経 下 新釈漢文大系 (26)


四書五経の一つの「書経」を全部読んだ。
昔、断片的には読んだことがあったけれど、あらたため素晴らしい知恵の宝庫と思った。

四書よりも書経の方が面白い気がする。
荻生徂徠横井小楠も、書経に立ち帰ることで、それまでの儒教の常識を打ち破る新たな思想を打ち立てたけれど、書経にはそういうことを可能にする懐の広さと清新さがある気がする。

書経には、三徳として、正直・剛克・柔克の三つの徳が挙げられている。 正直で公平なこと、強い意志を持っていること、人に対して優しく調和的であること、の三つが、人として身につけるべき徳ということだろう。

特に心に残ったのは以下の言葉の数々。

「其稽我古人之徳
(略)
其有能稽謀自天」
(それ、古人の徳に稽我せん。
(略)それ、またよく天に稽謀せん。)

昔の人の徳を倣い、天とよく対話し生きていくこと。
書経のこの箇所は、本当に人間にとって根源的に大切なことと思う。


「邦の杌陧(ごつとつ)は、いわく一人による。
国の栄懐は、また一人の慶による。」
(邦之杌陧、曰由一人。邦之栄懐、亦尚一人之慶。)

一国の動揺は、一人の人によるし、一国が栄えるのも、一人の人のめでたさによる。
書経のこの言葉は、味わい深いと思う。


「問いを好めばすなわち裕(ゆたか)に、
自ら用うればすなわち小なり。」
(好問則裕自用則小)

質問を好めば自分が豊かになり、質問せずに自分勝手に判断していると自分は小さいままである。
書経のこの言葉も味わい深い。


「学ばざれば、かべに面す。」
(不学牆面)

学ばないと、壁を乗り越えることはできない。
逆に言えば、学べば壁を突破できる。


「よくせずということなかれ」
(罔曰弗克)

できないと言ってはならない。
できると言え。
この言葉も味わい深い。


「道に升降あり、政は俗によって革(あらた)む。」
(道有升降政由俗革)

道というものには変化があり、政治というものはその時代の風俗に従って改革されるべきものである。
この書経の言葉は、儒家とは思えないダイナミズムがあると思う。


「匹夫匹婦も、自ら尽すことを獲ざれば、民と主とともにその功を成すなし。」
(匹夫匹婦不獲自盡尽民主罔與成厥功)

あらゆる男性や女性が、それぞれ自分の本分を発揮できなければ、その国民も政治家も、功績を成し遂げたとは言えない。
この書経の理想はすばらしいと思う。


「その初めを慎み、その終りをおもえば、ついに以て困(くる)しまず。」
(慎厥初惟厥終終以不困)

最初からよく注意し、その結末もよく考慮すれば、あとで苦しまずに済む。
書経のこの言葉は、時代を超えて常に真理だと思う。


「おしふるは学ぶの半ばなり。」
(斅学半)
これは真理である。
アウトプットをしようとすると、インプットも非常にはかどる。


「その身を慎み、思ひの永きを修む。」
(慎厥身修思永)

自分の道徳を心がけ、長いスパンでの思慮を身につけるようにする。
とても大事なことと思う。


「ああ、君子はつとめて、それ逸することなかれ。」
(嗚呼君子所其無逸)

書経の中の周公の言葉。
人は努力し、怠けてはならない。
シンプルなだけに、深い味わいがある。


「もし薬、瞑眩せざれば、その病いえず。」
(若薬弗瞑眩厥疾弗瘳)

目がくらくらするほどの薬でなければ、その病気が癒えない場合もある。
良薬口ににがし、ということだろう。
書経のこの言葉は、なかなか考えさせられる。


「黍稷の馨(かぐわし)きにあらず、明徳これ馨(かぐわ)し。」
(黍稷非馨明徳惟馨)

神さまにお供えする食べ物よりも、人間の徳こそがかぐわしい香りを放つ。
この書経の言葉は、非常に美しいと思う。


「正徳・利用・厚生、これ和せよ。」
(正徳利用厚生惟和)

正しい道徳と、経済と、人間の生活を豊かにすることを、調和させなさい。
この書経のメッセージ、はたして現代日本はできているのか。
全然できていないのではないかと考えさせられる。


「細行をつつしまざれば、終に大徳を累す。」
(不矜細行終累大徳)

小さなことを大切に慎重にしなければ、最終的に大きなことに響いてくる。
書経の言葉だけれど、本当に真実と思う。


「これ、口は好を出だし、戎を興す。」

(惟口出好興戎)
口から出る言葉は、人々の友好を生み出しもすれば、戦争を起しもする。
今も通用する真実。


「功の崇きはこれ志なり、業の広きはこれ勤なり。」
(功崇惟志業廣惟勤)

成しとげることの高さはその人の持つ志により、その大きさは努力によるものである。
書経の言葉。
志と努力の大切さは万古不易。


これらの他にも、たくさん良い知恵の言葉の数々があった。
また折々に読み返したい。