山本五十六 「述志」

山本五十六 「述志」 二通


「一死君国に報ずるは素より武人の本懐のみ、
豈戦場と銃後とを問はんや。

勇戦奮闘戦場の華と散らんは易し、
誰か至誠一貫俗論を排し斃れて已むの難きを知らむ。

高遠なる哉君恩、悠久なるかな皇国。
思はざるべからず君国百年の計。

一身の栄辱生死、豈論ずる閑あらんや。

語に曰く、丹可磨而不可奪其色、蘭可燔而不可滅其香(丹は磨くべくも、その色を奪うべからず。蘭は燔(や)くべくも、その香を滅すべからず)と。

此身滅す可し、此志奪ふ可からず。

昭和十四年五月三十一日

海軍次官官舎」


「述志

此度は大詔を奉じて堂々の出陣なれば生死共に超然たることは難からざるべし。

ただ此戦は未曾有の大戦にしていろいろ曲折もあるべく名を惜しみ己を潔くせむの私心ありてはとても此大任は成し遂げ得まじとよくよく覚悟せり。

されば

大君の御楯とただに思ふ身は
名をも命も惜まざらなむ

昭和十六年十二月八日」