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感想は、なんといえばいいのだろう。
一言で言えば、
「主人公はある意味幸せでうらやましい。しかし、これじゃあいかんのではないか?」
というものである。
どうにもならない時代状況の中で、ある種の諦念を抱えて、しかし幼いころからの夢にあらん限りの生命を傾けて、飛行機を飛ばす。
しかも、結核の彼女と束の間だが本当の恋をする。
これらは悲劇ではあるが、人として最高に恵まれた幸せなことでもあろう。
また、人生のどうにもならない悲しみや、時代状況への無言の嘆きや諦念が作品には一応込められていると見てとることもできる。
しかし、最後まで、主人公たちは、ひたすら自分の技術にのみ精魂を傾け、その技術がいかなる用途で使われているかについて、全く考えない。
あるいは意図的に考えようとしない。
戦争と敗戦という現実の進行と悲惨な結果とその責任について、目をそむけている主人公の姿勢は、あれでいいのだろうかと疑問が拭えない。
ゼロ戦に乗って帰ってこなかった人々のことが一応は言及されるので、この映画を反戦平和ととらえる人もいるようだけれど、諦念と悲しみはあったとしても、全体の中での自分の行為の意味やそのことへの理解や慚愧は、とうとう作品中には語られない。
軍需産業に携わっていることの問題性は、あの時代において飛行機を飛ばすにはその道しかないという時代状況の制約があることは踏まえたとしても、もっと何かしら言及がないと、この作品は若者に見せた時に、諦念と無責任のみを教えることになってしまうのではないかと心配である。
もちろん、人生にはどうにもならないことがある。
時代や社会というのも、どうにもならぬものだと、年を重ねてくると、ある種の諦念が澱のように人の胸中にはたまってくる。
その中で、人が何かできるとしたら、とにもかくにも、幼い頃の夢を忘れず、自分なりに制約や状況の中で生命を燃やし尽くすことぐらいなのかもしれない。
それができれば、いかに悲惨であろうと、最高に幸せな人生だったと言えるかもしれない。
その意味では、この作品のメッセージは、一応はわかる部分もある。
特に、ある程度の年になった大人が見た時には、よくわかるところもある。
うらやましいとも思う。
だが、しかし、である。
たとえば、ほぼ同時代を描いたアニメ映画『千年女優』では、その時代状況に果敢に批判の声をあげて抵抗し、特高警察に捕まって死んでいく青年が冒頭に出てくる。
それと比べて、『風立ちぬ』では、特高警察は出てきても、あくまで周辺的なエピソードだし、主人公は無関心と無関係に終始しようとし、職場の協力と庇護で無関係を実現できるのみである。
時代の圧力に抗しようという姿勢は全くない。
おそらくはゾルゲをモデルとしたと思われる避暑地で出会うドイツ人は、束の間ともに歌をうたったり友情が存在するものの、そのドイツ人がなぜ追われる身であるかについては主人公は深く考えようともしないし詮索せず、無関係・無関心なままとなる。
自分の人生についてはたしかに生命を燃やしながら、時代については主人公ではなく傍観者に徹する。
これは、あの時代にはやむをえずに多くの人が屈曲や屈折を抱えながらそうなった生き方だったかもしれない。
それはそれで、哀れなものでもあるし、後世の人が一概に裁くことはできないかもしれない。
とはいえ、今の視点からもしこの時代を描くならば、もう一段階、きちんと時代と向き合うことやこの社会の当事者でありその責任があることを描かないと、民主主義というものからは程遠い、単なるテクノクラートの人生を賛美するだけになるのではないか。
主人公は、下手をすれば、アイヒマンやメンゲレとあまり変わらない人間になってしまう危険性もある。
時代状況に当事者として向かい合う倫理がきちんと存在しないと、作品として、人間としての生としては何かしら欠落のある生しか描けないし、提出できないことになるのではないか。
それとも、私たちの今生きている戦後七十年経った今の日本は、時代と向き合うことや社会の主人公として生きることを断念して諦念を抱えて生きて、技術や自分の専門に逃げ込むことでのみ生の充実を得ようとするしかないのだろうか。
ある種の全体主義国家の中にいる人間のようにしか生きられない社会なのだろうか。
もしそうだとしたら、なんともはや恐ろしいことである。
もしそうでないなら、もう少し別の要素をこの時代を描く時には描きこんで欲しいものである。
ただし、上記のことを除いて言えば、映像はとても美しかったし、上記の腑に落ちなさを含めて、私は嫌いな作品ではなかった。
実際にはありえないことだろうけれど、風に飛んだ帽子をキャッチして渡した少女が、
“Le vent se lève” などと話しかけてきて、” Il faut tenter de vivre.”などと切り返すことができれば、たしかに最高の人生ではあろう。