- 作者: 中沢啓治
- 出版社/メーカー: 汐文社
- 発売日: 1986/04/01
- メディア: 単行本
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ゲンよりも、十年ぐらい前の、昭和十年ぐらいが舞台。
主人公の少年のお父さんは、演劇を通じて日本の軍国主義や戦争を批判する活動をしていたため、特高警察に捕まり、拷問を受け続ける。
お母さんは、病気で死んでしまい、幼い弟と妹を抱えて、主人公は苦労する。
悪い親戚に、弟と妹はそれぞれ満州と沖縄に養子に売り飛ばされてしまう。
主人公はいろんな困難や苦労をしながら、朝鮮人の少年や、中国人のおじさんなどとも友情を育みつつ、特高や警察の横暴に負けず、多くの人が軍国主義に誘導される中、だまされないで生きていく道を歩んでいく。
苦労の末、満州で弟に再会するが、弟はわりと親切な人に引き取られていて、その家の子どもが亡くなっていたこともあり、一緒に日本に返ろうと言う兄の言葉を拒否して、満州にとどまる。
本当ならばもっと長く続くはずの物語だが、わりと途中で、突然終わってしまっているので、たぶん掲載媒体の都合か何かで、途中で無理に終わらせてしまっているところがやや残念だが、良い作品だった。
昭和の初期は、本当に、暗黒の時代と言ってもいいほど、特高や軍隊の横暴がまかりとおっていた時代だったのだとあらためて思う。
なお、『ゲキの河』は、表題作だけでなく、上巻には「ある日突然」、下巻には「何かが起きる」という、それぞれ短篇の作品も収録されている。
どちらも、戦争が終わってから二十五年が経った昭和四十五年が舞台で、まだ中学生ぐらいの少年が、親が被爆していたために突然白血病になり、なんとか治りたいと思い、周囲もそのことを願いながら、亡くなっていく物語だった。
「ある日突然」は、父親の嘆きの深さが、また「ある日突然」は日本一のラーメン屋を目指していた少年が周囲から惜しまれながら死んでいく様子が、とても心に残った。
『はだしのゲン』とともに、あらためて多くの人に読み直されて欲しい、痛切なメッセージに満ちた作品だった。