内村鑑三「楽しき生涯 (韻なき紀律なき一片の真情)」

内村鑑三「楽しき生涯 (韻なき紀律なき一片の真情)」


我の諂(へつら)ふべき人なし
我の組すべき党派なし
我の戴くべき僧侶なし
我の維持すべき爵位なし


我に事ふべきの神あり
我に愛すべきの国あり
我に救ふべきの人あり
我に養ふべきの父母と妻子あり


四囲の山何ぞ青き
加茂の水何ぞ清き
空の星何ぞ高き
朝の風何ぞ爽き


一箱の書に千古の智恵あり
以て英雄と共に語るを得べし
一茎の筆に奇異の力あり
以て志を千載に述るを得べし


我に友を容るゝの室あり
我に情を綴るゝのペンあり
炉辺団坐して時事を慨し
異域書を飛して孤独を慰む


翁は机に凭れ
媼 は針にあり
婦は厨に急はしく
児は万歳を舞ふ


感謝して日光を迎へ
感謝して麁膳に対し
感謝して天職を執り
感謝して眠に就く


生を得る何ぞ楽しき
讃歌絶ゆる間なし