- 作者: 中沢啓治
- 出版社/メーカー: 汐文社
- 発売日: 1986/04/01
- メディア: 単行本
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- 作者: 中沢啓治
- 出版社/メーカー: ほるぷ出版
- 発売日: 2012/04/01
- メディア: コミック
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とても良い作品だった。
広島で被爆したことを長く自分の子どもに語らずにいた主人公。
母が亡くなり、二十五年ぶりに広島に戻り、三十二年前の出来事を息子に語る。
当時、軍国少年だった主人公は、学校でもそのように教えられ、ガダルカナルで戦死した父の仇を討とうと思い、無邪気に日本の正義を信じていた。
しかし、中国大陸で二百人以上を殺したという町内の退役軍人の自慢話を聴いたり、同級生の朝鮮人の子どもの話を聴くうちに、また父の戦友から母が聞いたという父のむごい死に方を聞くうちに、少しずつ考えが変わっていく。
さらに、同級生の親友の父が、特高警察に捕まり拷問で殺され、その友人をユーカリの木の上にかくまって暮すうちに、大きく考えが変わっていくが、八月六日の原爆投下で、あとかたもなくその親友は死んでしまい、街は焼野原になってしまった。
主人公は、久しぶりに帰った広島で、半分は焼けた跡が残りながらも、なおユーカリの木が残って生きてくれていたことに感動し、自分の息子に当時の思い出を語る。
その親友が、かつて教えてくれた、平井鉄太郎という当時の特高から弾圧を受けていた思想家の言葉が、心に残った。
「言論の自由なき世は
うばたまの
心の闇の牢獄とぞ思う
戦えば 必ず勝つと自惚れて
いくさを好むバカな軍人
我が力 かえりみもせで
ひたすらに
強き言葉を民は喜ぶ」
昭和初期に、リアルタイムに、これほどの勇気ある言葉をいた人がいたということに驚くし、そのような言葉を言った時に、いかにひどい目に当時は遭ったかということにもあらためて考えさせられた。
良い作品だった。
また、この巻には、「チエと段平」という短編が収録されている。
目の見えない女の子のために、一生懸命尽くすチンドン屋の主人公の物語なのだけれど、この物語、どういうわけか、私は昔、誰かから聞いたことがあったような気がする。
読んだことはなかったと思うのだが、不思議なものだ。
短いが、心に残る物語だった。