「愛の若草物語 完結版」

愛の若草物語 完結版 [DVD]

愛の若草物語 完結版 [DVD]


世界名作劇場の『若草物語』の総集編を見た。
このアニメは、私が小さい頃にあっていて、家族が見ていたので見るともなしに見ていた。
全然覚えていないと思っていたら、ところどころ覚えていて、驚いた。


ただ、ストーリーや背景は、小さい頃は全然よく理解できていなかったので、今回見てあらためてとても面白かった。


小さい頃は、なんとなく、特にこれといった出来事もない、少女趣味なつまらない作品ぐらいに思っていた。
しかし、これはなかなか、深い作品である。


父親が南北戦争北軍の軍人として出征しているので、母と四人の姉妹が父の帰りを待っているというのがおおまかな物語の背景である。
つまり、「銃後」の生活を描いた作品だ。
そのことが、小さい頃に見ていた時にはよくわかっていなかった。


つまり、幸せそうな暖かい家庭も、姉妹たちの繊細なこまやかな優しい心や生活も、実はそれが非常に稀有な、それらが無視されがちなあまりにも残酷で野蛮な南北戦争が戦場では繰り広げられているという背景があってこそ、その貴重さがわかるのだと思う。


風と共に去りぬ』と異なり、女性たちが主人公と言っても若草物語の場合は北軍方なので、自分たちが住んでいる地域が戦場になったり炎上することはない。
その点、『風と共に去りぬ』よりはたしかに恵まれているのかもしれない。
しかし、戦争の影はそこかしかにあるし、四姉妹の父は戦場で負傷し重い病にかかる。


ただ、若草物語のお父さんは、無事に回復して帰還できる。
それに北軍方なので、いわば大義も名誉も、南軍と違い保障されていると言える。
作品の中で、ゲティスバーグ演説について、ジョーの友人の新聞記者がその文章を手紙で送ってくれて、ジョーたちがそれを読んで感動するシーンがあるが、これも北軍方だからこそ何の違和感もなく素直にできたことなのだろう。
つまり、若草物語に出てくる大人というのは、父といい、リンカーンといい、至極立派な、大人の模範のような人々であり、その点も幸せな世界と言えるのかもしれない。


父の帰りを待ち、家計が苦しい中でも、助け合って仲睦まじく暮す四姉妹と母たちの姿は美しいし、とても幸せに見える。
隣の家の人々もあたたかで、優しい人々である。
その点でも、たしかに幸せな世界が描かれている。


小さい頃、私がこの作品をなんとなく退屈に感じたのは、こうした幸せが、いかに貴重な稀有なものか、まだわかっていなかったからなのだと思う。


南北戦争のひどさをそれからだいぶ経ってから一応歴史の知識としてある程度知ってから見ると、それらがいかに大切なものだったかわかるし、おそらく、出征している父たちは、そうしたものを守るためにはいかに艱難辛苦に耐えようともかまわなかったのだろう。
それはおそらく、主観的には南軍の多くの将兵たちも同じだったのだと思う。


また、戦争という背景を別にしても、人生というのは誰でも老病死から免れることができないわけで、幸せというのはなかなか稀有なものである。
この作品の続編が同じ世界名作劇場の『ナンとジョー先生』としてつくられていて、四姉妹の次女のジョーが主人公として再び登場するのだけれど、四姉妹の三女のベスはすでに早逝しており、長女のメグの旦那さんは『ナンとジョー先生』の中で急逝するところが描かれる。
いわば、この作品に描かれた幸せは、ずっと続くものではなく、だからこそ本当に貴重なものだったことが、それらを知った上で見直すと、よくわかる。
そういうことは、ある程度大人になってから見ないとわからないことかもしれない。


そういえば、私が昔付き合っていた人は、この作品が好きで全部読んだとか言っていた。
その頃は、さほどこの作品に興味もなく知識もないので全然話に付き合ってあげることができなかったが、よく知っていればもう少し気の利いた会話をそのつどできたろうなぁと少し悔いられる。


世界には鈍感な野蛮さが満ちていればこそ、この作品が大切にしているような、幸せや暖かさや本来の人間のあり方というのは、実は非常にかけがえのないものなのだと思う。
いつかそのうち、機会があったら原作も読んでみたいと思う。


あと、今回見ていて面白かったのは、続編の『ナンとジョー先生』では問題児たちに辛抱強く接し、本当に良い大人となっているジョーが、この『若草物語』では四女のエイミーとケンカして怒りすぎてそのことをとても後悔するシーンなどがあることだった。
人は誰でも最初から完璧なわけではなく、性格に短所や欠点もあるのを、家族の中やあるいは隣人たちとの人間関係の中で、修正し、克服していくことが、成長し、大人になっていくということなのだろう。
この作品はそうしたことを繊細に描いているという点で、とても良い作品だとあらためて思った。