アニメ 『母をたずねて三千里』 全五十二話

母をたずねて三千里(13) [DVD]

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小さい頃にところどころは見たことがあった。
しかし、今回、この全五十二話を見て、本当に感動した。
私が生れる前につくられた作品だというのに、本当にいささかも古びない、とても素晴らしい、芸術性の高いアニメだと思う。


アルゼンチンに行ったきり、連絡がとれなくなった母を探しに、イタリアから一人で旅立つ少年・マルコ。


旅の途中には、優しい人もいれば、冷淡な人もいる。
世間の冷たさと、人のあたたかさと、その両方をこのアニメは教えてくれる。


どんなに困難な時にも、いつも前向きに、逞しく、旅を続けていくマルコの姿には、本当に大きな勇気をもらった。


このアニメに描かれるのは、イタリアでは失業者や貧しい人が溢れ、アルゼンチンでも明らかな格差社会が存在している様子で、その点、今の日本にも他人事ではないリアルな社会の姿である。
その中で、マルコの父のピエトロは、ジェノバの町で、貧しい人も診療を受けることができる病院の設立をめざし、実際に設立し苦慮しながら運営している。
その資金繰りを助けるために、母・アンナはアルゼンチンに出稼ぎに行くのだが、幼いマルコは、はじめは父に対して反感を抱く時もあった。
しかし、貧しい人のために尽くすピエトロの姿にジェノバにいる時から深く考えるところがあり、さらにアルゼンチンで多くの貧しい人々と接して友達になるうちに、自分も将来は医者になって貧しい人々が診療を受けれるように尽くしたいと志すようになる。


母をたずねて三千里』が放映されてから三十年以上経ち、おそらくこの作品の存在を知らない日本人はいないぐらいに有名だが、こうした医療や助け合いの志については、どのぐらいこの作品からきちんとそのメッセージを受けとめ、生かしているのか甚だ心もとない。


また、マルコが旅先で出会う人は、冷たい人も多い反面、本当に親身な、優しい、親切な多くの人が出てくる。
最初はとっつきにくいと思った人が意外ととても親切だったりする。
貧しいながらに、人助けや親切や助け合いの心を持った多くの人々の姿は、本当に胸を打たれる。


そして、真っ直ぐに母のもとに向かい続けるマルコの母への深い愛情にも、人間の根源的な姿を教えられるような気がした。


草原にいる老ガウチョのドン・カルロスのことは、小さい頃、とても印象に残っていて、名前は忘れていたけれど、今回見ていてあらためて思い出した。
ああいう男になりたいものである。


また、インディオの少年のパブロとその妹のフアナのこともなんとなく記憶していた。
あらためてその兄妹愛の美しさに泣けた。


少なくとも二十数年ぶり以上に見てて、すーっとところどころ思い出したのには我ながら驚いて、人間の記憶力って不思議なものだと思った。


原作の『クオレ』も読んだのでわかるのだが、原作は『クオレ』の中の本当に短い一部分に過ぎず、ペッピーノ一座もフィオリーナも、ドン・カルロスやパブロも登場しない。
本当によく原作をこれほど豊かに膨らまし、素晴らしい作品に高めたと、今回原作を読んだ上で見てただただ感嘆した。
ジャパニメーションは本当にすごいと思う。


スケールの大きさも、映像の美しさも、詩情あふれる物語の細部の展開も、本当に名作だと思う。


今も、多くの人に見て欲しい、ジャパニメーションの最高傑作の一つと思う。
今回、きちんと見ることができて、本当に良かった。