- 作者: 須藤オリーブ,松谷みよ子,野村敬子,三栗沙緒子
- 出版社/メーカー: 星の環会
- 発売日: 2001/04/20
- メディア: 単行本
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とても面白かった。
フィリピンの民話って面白いなぁ〜っと本当思った。
いくつかの民話が収録されている。
愉快な話あり、ほろりとする話もあり。
ピンドンという少年の物語は、自分の心こそが最も大切なことだと教えてくれる良い物語で、面白かった。
だが、最も印象的だったのは、ルミンという少女の以下のようなかわいそうな物語。
昔、ルミンという少女がいた。
家が貧しく、お父さんは飲んだくれて全然働きもしない。
お母さんは、仕事と家事とで働き過ぎて、ついに具合を悪くして倒れてしまった。
ルミンは、食べるものがないので、ある日、町に行って食べ物を盗んできて、それでお母さんとお父さんと自分がなんとか食べることができた。
次の日も、その次の日も、そうした。
やがて、お父さんも具合が悪くなって横になってばかりいるようになったので、盗んで生きていくしか道がなくなった。
そのようにして暮すようになってしばらく経った頃。
あるお店で物を盗もうとしている時に、店の主人に見つかり、ルミンは捕まった。
今まで盗んだすべての分を返済すれば、役所には連れて行かないと店の主人は言った。
しかし、盗んだものはすべて食べ物で食べてしまったので、返すことができない。
そう言うと、役所に連れて行かれて、裁判となり、ルミンは罰として両手を切断されてしまった。
家に帰ると、ルミンが逮捕されて裁判を受けている間に、誰も世話をする人がいないので、お母さんは死んでしまっていた。
お父さんはどこかに行ってしまって、見つからなかった。
ルミンは泣く泣く、自分の庭に、自分の二本の腕を埋めた。
すると、そこから樹が生えてきて、やがて手のような形の葉っぱが茂り、実がなった。
その実をもぐと、四つに皮がわかれ、中からは白いきれいな実が出てきて、食べることができた。
これは、四つに分かれた皮は、ルミンの白い四本の指で、真ん中の実の部分が親指であり、これがバナナの木と実だった。
バナナの木は、ルミンの腕から生えたものだった。
という物語だった。
もちろん、本当にはありえない話だけれど、きっと元になる話があったのだろうと思うと、なんとも哀れで涙が出てくる思いがした。
きっとこのように貧しくて、他に生きていく術がなくて、盗みを働き、その結果腕を切り落とされた少女が実際にいて、その哀れさからできた民話なのだという気がする。
杓子定規に法律で裁く役所や大人の冷酷さへの怒りや、少女の事情に寄り添う心や、食べ物があればよかったのにという願いからバナナが生れたという、物に託して何かを記憶していくという民話の機能という点でも、短いながらとてもすぐれた民話だと思った。
フィリピンの民話や神話や文学など、少しずつ、他にも調べてみたいものである。