絵本 「ぼくの図書館カード」

ぼくの図書館カード

ぼくの図書館カード


作家のリチャード・ライトの若い日々を、自伝を元に描いた絵本。


リチャード・ライトは貧しい黒人の家に生まれ育った。
おじいさんは、南北戦争北軍に加わった思い出話を話してくれ、お母さんは忙しい仕事の合間に新聞の漫画欄を声に出して読んでくれた。
やがて文字を覚えたリチャード・ライトは、本を読みたいと思うが、家にはほとんど本がなかった。
図書館で本を借りることもできなかった。
当時、1920年代のアメリカの南部では、図書館も運動場も公園も、黒人の利用が禁止されていた。


若者になり、いつかシカゴに行こうと思い、そのためのお金を稼ぐため、リチャード・ライトはメンフィスのメガネ屋さんで下働きの仕事を見つけた。
大人しく、まじめに働き、コツコツお金を貯めた。


しかし、本がどうしても読みたいと思った。


たまたま、職場に本好きな白人のジム・フォークさんという人がいた。


ある日、勇気を出して、図書館カードを貸して欲しいと頼むと、ジム・フォークさんは多少とまどいながらも、貸してくれた。


それから、ジム・フォークさんから頼まれたといい、図書館でトルストイディケンズやスティーヴン・クレインの本を借りて読んだ。
世界が一変した。


図書館の人から、本当にあなたが読む本ではないのでしょうね?と尋ねられ、僕は字が読めません、と答えると、白人たちは笑って本を貸し出してくれた。
そうした屈辱に耐えながらも、すばらしい文学をせっせと読んだリチャード・ライト


やがて、メガネ屋の下働きをやめて、貯めたお金で北へと旅立つ時が来た。
ジム・フォークさんは黙って手をさしだし、皆が見ている中でかたい握手をリチャード・ライトと交わした。
当時は、白人と黒人がそのように握手することは極めてめずらしいことだった。


リチャード・ライトは、黒人の作家として、名前だけは猿谷要の『歴史物語 アフリカ系アメリカ人』で知っていたけれど、まだその作品は読んだことがない。
ぜひいつか読んでみたいと、この絵本を読んで思った。


自由に図書館を使うことができ、いろんな文学の名作を読める。
この、現代日本ではごく当たり前に感じていることが、当たり前ではなかった過去の歴史を思うと、あだおろそかにはできないとあらためて思った。