学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈上〉1492~1901年
- 作者: ハワードジン,レベッカステフォフ,Howard Zinn,Rebecca Stefoff,鳥見真生
- 出版社/メーカー: あすなろ書房
- 発売日: 2009/08/01
- メディア: 単行本
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とても面白かった。
若者向けに書かれているので、すぐに読める。
庶民やマイノリティの視線から再構成されたアメリカ史である。
上巻では、コロンブスから19世紀後半の労働運動やキューバやフィリピンへの侵略まで描かれている。
この本によれば、イギリスから独立する前の初期のアメリカでは、白人の奉公人など、極めて貧しい白人が多数いて、反乱の騒動も起こったという。
ベーコンの反乱など、私は恥ずかしながらよく知らなかったので、とても興味深かった。
白人富裕層が最も恐れたのは、そのような白人貧困層と黒人奴隷が提携して反乱を起こすことだったらしい。
黒人差別は、決して自然発生的なものではなく、貧しい白人と黒人奴隷が提携して反乱を起こすことを防ぐために、人為的につくりだされ、両者の間を引き裂くためにつくられたものだ、著者は指摘する。
そのあとの、たとえば十九世紀後半において農業の組合的な運動だった「ポピュリズム」が失敗したのは、「ポピュリズム」内部での白人貧困層が、他の移民や黒人を蔑視して、提携できなかったからという指摘を読んでいると、なるほどと思う。
人種差別や民族意識というのは、えてして経済的な利害対立を隠蔽したり分散させるための巧妙な仕掛けなのだろう。
また、この本を読んでいて驚いたのは、七年戦争のあと、アメリカは、インディアンを掃討するために、病院で使われた毛布をインディアンに与えたというエピソードである。
それによって天然痘を広める「細菌戦」を仕掛けていたという。
その他にも、インディアンから土地を奪うためのさまざまな策略や侵略は、悪辣を通り越して形容する言葉すらなかなか見つからない気がする。
アメリカというのは、独立前から、そして独立の時から、一部の富裕エリート層が政治的実権も経済的な利益もほぼ独占するものだったことが、この本ではわかりやすく描かれている。
独立戦争に参加した将校や士官は、戦争中の俸給の半分が生涯年金としてもらえたのに対し、一般兵卒はそんなことはない上に、戦争が終った後も貧困や失業に苦しめられたそうである。
メキシコ戦争のいかがわしさもこの本ではわかりやすく描かれており、勝ち戦だったにもかかわらず多くの脱走兵が続出したこと、そして一般兵卒に土地は約束通り与えられたものの、現金の必要や借金の返済義務のためにその多くがすぐに土地投機家に二束三文で買いたたかれたことも、読んでいてなんとも言えぬ気持になった。
南北戦争期、北軍は三百ドルを支払えば徴兵が免除されたという記述も、なんとも考えさせられた。
南軍も同様のシステムがあったそうだ。
結局、いつの世も、金持ちは安全なところで暴利をむさぼり、前線で戦死するのは貧しい庶民なんだろう。
ベトナムやイラクの戦争での構図は、アメリカの場合、ずっと昔からのようである。
こうした状況にもかかわらず、時に挫折や失敗や鎮圧されることを繰り返しながらも、黒人やインディアン、あるいは女性や白人労働者などにより、さまざまな抵抗の試みがなされてきたことも、この本はわかりやすくよく描いている。
メキシコ戦争へのソローの抗議、フィリピンへの侵略をマーク・トゥウェインが批判したことや、ウィリアム・ジェームズのキューバ侵略への批判など、さまざまなアメリカ内部での政府の帝国主義への批判が同時代にあったことも記されている。
黒人奴隷制廃止運動と、女性の権利獲得運動が密接な関連があったことも興味深い。
アメリカというのは、非常に多様な側面があり、一面でどうしようもない欺瞞や独善がある一方で、常にそれに対する対抗運動や浄化への努力があったところが、アメリカの歴史の面白いところなのかもしれない。
下巻もこれから読むつもりだが、誰でもほんの数時間もあれば読める本なので、ぜひ一読をお勧めしたい本だと思う。