映画 「アレクサンドリア」

アレクサンドリア [DVD]

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四世紀末のアレクサンドリアが舞台で、ヒュパティアという女性の哲学者が主人公の物語。


その時代はローマ帝国の末期で、キリスト教が権力を握りつつあった。
ヒュパティアは図書館長の娘であり、天文学や哲学を愛し、学校で教壇に立って、自由な研究や学問を行っていた。


しかし、キリスト教から見た場合、そのような学問の自由は神への冒涜であり、しかも女性が教壇に立つなどということは許され難い行為だった。


古代ローマの伝統的な多神教と、ユダヤ教と、キリスト教のそれぞれが相争うなかで、ヒュパティアはただ自分の良心と学問の自由に忠実でありたいと思っているだけなのだが、やがてキリスト教徒たちのどす黒い憎悪の対象となっていく。


ついにローマ帝国キリスト教にのっとられていった頃、ヒュパティアは狂信的なキリスト教徒につかまり、裸にされた上に殺される。
これは史実らしい。


なんともひどい話で、この映画を見ていると、キリスト教の狂信的な人々ってのは本当にろくでもないなぁとあらためて思わざるを得ないし、古代ローマの哲学や多神教のままであれば、どれほど天文学や科学が進歩しただろうかと思わざるを得なかった。


ただ、この映画は、ヒュパティアが短い生涯ながら、プトレマイオスアリスタルコスの学説を検討し、実験を行いながら、常に天文学に想いを馳せ、太陽の軌道を楕円だと考えつく姿を、輝くように描いていて、悲劇的な生涯だったけれども、本人としては十分にしっかりと輝いて生きた人生だったのかもなぁと思った。


また、キリスト教についても、必ずしも単線的な描き方ではなく、奴隷や貧しい人々にとっては解放の側面もあったことも描いていたし、ヒュパティアらのローマの上層の人々の無意識的な傲慢も描いてあって、その点よくできた作品だったと思う。


にしても、あのあたりで、ヨーロッパはやっぱり、一度、古代ギリシャやローマの自由な輝きが窒息させられて、宗教的な抑圧と狂信が支配する時代に突入してしまったんだろうなぁと思う。
今の世界も、形を変えて、さまざまな狂信がともすれば未だに存在しているのかもしれない。
それぐらい、人間というのは、根源的に愚かでどす黒いものを抱えた存在でもあるのだろう。
ヒュパティアのような人が自由に生きていける時代や社会というものを、本当に守れるようでないとなぁと思う。


ただ、狂信に対して、なんと哲学や学問は無力なものだろうかとも、この映画を見ていて思った。
そうであればこそ、本当に信念を持って、断固狂信と闘う人が、一人でも多くいるべきなのだろう。