アベノミクスの後を見越して日本のリベラルは実力の養成と再起を

次期首相が間近い安倍さんは、日銀に強力な圧力をかけて金融緩和を行う方針を示している。
国土強靭化法をつくって大規模な財政出動も行う方針を示している。
こうした金融緩和+財政出動によって、インフレと円安をつくりだし、そのことによって景気を回復して税収増を図る方針だそうである。
そのことを「アベノミクス」とレーガン政権時代の経済政策・レガノミクスをもじって呼ぶ名称が、はや定着しつつある。


残念ながら、アベノミクスは失敗に終わると私は思う。
その理由は、アベノミクスが今のデフレを通貨供給量でどうにかなる問題と考えているからだ。
現在の物価下落傾向の原因は、要素価格均等化が強く働いていることと、生年齢人口減少による需要減との二つの要因による。
この二つの要因は長期的な傾向なので、財政出動でどうにかなるものではない。


その証拠に、量的緩和と百兆円の財政出動を、すでに小渕・森政権等の歴代自民党政権は行ってきたが、その結果が今の日本の財政難と依然としたこの経済状況である。
昨日、Nスペで「日本国債」という番組があっており、加藤紘一さんがその番組に出て、当時いかに強力に量的緩和を進め日銀に圧力をかけたかということを語っていた。


アベノミクスはその焼き直しというだけではないか。
正直、効果はかなり疑問な気がする。
本当に今後の日本の財政は大丈夫だろうか。


もちろん、私の予測がはずれて、日本経済や財政が回復するならば、こんなに喜ばしいことはない。
しかし、私の予測が的中すれば、日本にとって今まで以上に取り返しのつかない事態になるだろう。
過去の歴史に学び、安易な財政出動は慎むべきだと思うが、どうもこのままいくと、日本の財政はさらに悪化の一途を辿るようである。


菅・野田政権は、社会保障を重視しつつ、財政を地道に再建しようとする政策だった。
それは財務省の方針でもあったろうけれど、国民多数の利益にかなったことだった。
そのことは、やがて時が経てばわかることだろう。
菅・野田政権を叩いて倒し、ろくに守ろうとしなかったのは大多数の国民である。
その結果、アベノミクスによって財政悪化が加速化されたとしても、国民の自業自得である。


それにしても、小泉政権は、まだしも財政規律やプライマリー・バランスを重視しており、公共事業の圧縮を行っていた。
当時の小泉政権を担っていた人々は、これから行われようとしているアベノミクスをどう見ているのだろう。
論理的には彼らは国土強靭化を批判して良いはずであるが、あまりそうした声は聞こえてこない。
権力を再び奪還したという美酒の前には、国家の財政などは、自民党の政治家やその御用学者にとっては、二の次三の次なのだろうか。


第一次安倍内閣は、良くも悪くも小泉政権の継承政権という色合いが強かった。
しかし、第二次安倍内閣は、このままいくと、小泉政権というよりも、それ以前の、小渕・森政権の時代の、金融緩和と大規模公共事業という色合いの強い政権になりそうである。
その結果は我々はすでに見たはずだが、すでに見てきた結果から、私たちは何も学んでこなかったのだろうか。


安倍さんは、あまり金融や財政を変にいじくるのではなく、拉致問題の解決にまずは取り組んで欲しいと私は思う。
拉致問題を解決すれば、後世にも大きな業績となるだろう。
御本人も最も今まで手掛けてきたし、よく知識もある分野ではないか。
しかし、どうも拉致問題よりも、まずは金融緩和とインフレターゲットに挑むようである。


円安になった場合、石油等の天然資源を買うコストは上昇する。
現時点でかなり高くなっているガソリンの値段は、円安になればさらに跳ね上がるだろう。
アベノミクスで円安になった場合、そうした結果は当然覚悟しておかなければならないが、円安支持者は本当にわかってるだろうか。


円安を主張しているのは、経団連を中心とする製造業・輸出業の企業が主である。
彼らの利益からすれば、それはいたしかたないし、当然のことである。
しかし、ここで無理に円安にしたとしても、結局、かつてと同じく、現状の産業構造が維持されるだけになる。
しかも、ガソリン価格の高騰にもつながる。


ある程度の円高を受けいれた上で、産業構造の転換を推し進めること。
地道な財政再建の努力をすること。
ここに日本の将来のか細い未来への道はある。菅・野田政権はその道を辿ろうとしていた。
しかし、国民がそれを後押しせず、アベノミクスを選ぶならば、その結果がいかなるものになろうと、全ては自業自得の仕方ないことなのだろう。


現在の物価下落傾向の原因は、要素価格均等化が強く働いていることと、生年齢人口減少による需要減との二つの要因によることはすでに指摘した。
これは長期的な傾向であり、財政出動通貨供給量でどうにかなることではない。
しかし、対処法がないわけではない。
産業構造を転換すれば、要素価格均等化はさほど強く働かなくなる。
また、人口を増やせば、長期的には需要減を止めることができる。
そのためには、円高を受け入れた上での産業構造転換政策の強力な推進と、社会保障の充実による出生率増加の努力しかない。
菅・野田政権は、不完全ながらも、その方向を模索し、志向していた。
しかし、いかんせん、発信能力や理論能力が乏しかったために、国民に理解してもらえず、支えてもらうことができなかった。
それは政権の側の力量や努力の不足でもあったのと同時に、国民の側の愚かさと力量不足でもあったろう。


安倍さんが靖国参拝を見送っても、戦略的なことだろうと支持を続ける右派に比べて、社会保障の充実と脱原発を明言する菅・野田民主党を叩きのめしてきたリベラル諸勢力は、どうしようもなく政治的センスが欠如していた。
敵の敵は味方と心得て協力し合う右派に比べて、ささいな違いや不完全さをあげつらい身内でつぶしあう日本のリベラルはどうしようもなく愚かだった。
その結果が、今回の12月16日の選挙結果である。


だが、それでもなおかつ、日本のリベラルは、ここから奮起してもう一度立ち上がらなければならない。
できる限り、アベノミクスの失敗を防げるようにリアルタイムで政策提言や微修正を心がけると同時に、アベノミクスの後に来るであろう惨状のあとに、日本を立て直すためのビジョンと政策能力を養成することを、今から心がけねばならない。
そうでなければ、失われた二十年は、失われた三十年となり、失われた半世紀となってしまうことだろう。


日本のリベラルは、今からアベノミクスの後を見越した実力の養成に励むべきである。