トルストイ 「人生論」

人生論 (新潮文庫)

人生論 (新潮文庫)

人生論 (岩波文庫)

人生論 (岩波文庫)

新版 人生論 (角川文庫)

新版 人生論 (角川文庫)


良い本だった。
今この本を読むことができて、本当によかった。

長年、私が悩み、考えてきたことが、ピタリと書いてあった気がする。
私にとっては、とても腑に落ち、納得のいく内容だった。

読む前は、もっと教訓くさい本かと思っていたら、ぜんぜんそうではなかった。
私はロシア語はわからないので、正確にはわからないけれど、たぶん「人生論」というよりも「生命論」と訳するのが適当な、人間の生命についての真摯な論究で、いささか古びない、とても新鮮な内容だと思う。

生命は、決して近現代の科学が研究してきたような、単なる物質の反応ではない。
幸福の希求、善の希求をその本質とするものである。
そして、人の生命というものが、本当に幸福に達するためには、動物的自我の満足ではなくて、奉仕と愛にお互いに生きるしかない。

生命は決して、短い束の間の肉体の滅びによって終わるものではない。
我々には見ることができない、遠い過去から続き、そして未来へと続いていく。
「目に見える生活は生命の無限の運動の一部分にすぎない。」

人は死んで無になるのではなく、精神の形の思い出として、ずっと働き続けていく。

「人は死んだ、が外界に対するその関係は生前どおりどころか数十倍もより強く人々に対して働きかけつづけているのだ。そしてこの働きは理性と愛情の度合いに応じて、まるで生きもののように大きく成長し、決してやむことも跡切れることもない。」(189頁)

などなどのメッセージは、本当に印象的だった。

また、苦痛は人間にとって、誤りを正し、罪を償い、正しい幸福へと至る不可欠のものであり、単に避けるのではなくそこに意味を見出していくべきだというメッセージも、深く考えさせられた。

印象的な、深い内容の本だった。

トルストイキリスト教の影響が一番強かったようだし、この本でも聖書が引用してあったけれど、この本の内容は仏教ともとても通底するところが多いと思う。
トルストイはその言葉を使っていないけれど、ここに描かれる「生命」は、「業」(あるいは業識)という言葉で言い換えると、また
「理性」は「法(ダルマ、ダンマ)」と言い換えると、一番しっくりくるのではないだろうか。
あるいはここに述べられる、理性的自我のすべての総称としての大いなる生命は、仏教徒如来阿弥陀仏と呼んだことと通底するもののような気がする。