- 作者: セネカ,大西英文
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/03/17
- メディア: 文庫
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今日、セネカの『生の短さについて』を読んだ。
この本は、岩波文庫でわりと最近出た新訳。
旧訳の『人生の短さについて』は今を去ること二十年ぐらい前、中学生の時に読んだことがある。
当時、とても大きな感銘を受けた記憶がある。
細かなところはほとんど忘れていたので、今回新訳で読み直してみて、あらためてこんなに良い本だったんだと、とても深い感動を覚えた。
二十年ぐらい、時が経つうちに、いつの間にか細部を忘れて、セネカはあまり深くはない思想家で、なんだかしかめつらしく時間にけちな気難しい老人、ぐらいにいつの間にやら勘違いしてしまっていた。
全然そうではなく、この本は、本当に珠玉の、人生論の真髄とも言うべき、本当に深い、そして新鮮な生命が脈打っている本だと思う。
セネカが言っているのは、べつに人付き合いを避けて、時間にけちになって、世の中から離れて生きろということではない。
そうではなく、本当に自由な人間として、主体的に、自分自身を尊び、与えられたこの人生の時間を活かして生きよ、ということなのだと思う。
むしろ、無意味に忙しいことをセネカは「怠惰な忙事」として批判している。
現代人の忙しさというものの実に多くは、この「怠惰な忙事」なのかもしれないと、読んでいて考えさせられた。
閑暇がもしあれば、その閑暇を享受していることを自覚し、哲学に日々に近づき、生を不注意や浪費に任せず、活用し、今この時をこそ真実に生きようとし、精神の進歩がないままに生を終えることがないように心がけて生きること。
それこそ、この本で、セネガが渾身の力をこめて力説していることなのだと思う。
セネカが重要視する閑暇というのは、べつにただ単にさぼったり怠けて生きるということではない。
英知(哲学)のために時間を使うことこそ、本当の閑暇だということを、セネカは明晰に言っている。
そのことに、今回読み直していて、あらためて気づいた。
「すべての人間の中で唯一、英知(哲学)のために時間を使う人だけが閑暇の人であり、(真に)生きている人なのである。
事実、そのような人が立派に見るのは、自分の生涯だけではない。
彼はまた、あらゆる時代を自分の生涯に付け加えもする。」
(48頁)
その他にも、
「生のごくわずかな部分にすぎぬ、われらが生きているのは」
「自権者」(sui iuris)として生きる事。
「なぜぐずぐずしている、なぜじっとしている、汝がつかまなければ逃げ去るのだ。」
などなどのメッセージは、あらためてとても心に響いた。
また、アリストテレスに日々に親炙することが説かれていることが、とても胸に響いた。
振り返ると、この本の影響のためか、あんまり私は世間一般的な娯楽や流行には背を向けて生きてきたとは思う。
その点は良かったとは思うが、しかし、あらためてこの本を読んでいると、いかに多くの時間を無駄に費やしてきたかについても、あらためて深く慚愧される。
今からでも、あらためて襟を正して、残りの人生の時間をしっかりと活用するように、この本を折々に読み直しながら生きたいと思った。
また、この本には、『心の平静について』と『幸福な生について』というセネカの二つの著書も入っている。
この二篇もとても良かった。
『心の平静について』で説かれるtranquillitas、つまり平静さ、あるいは静けさ、という心のありかたの理想は、とても共感させられた。
例としてあげられているカヌスの事例は、本当にすごいと思う。
男ならばこのようにありたいと思った。
また、『幸福な生について』の中の、
「生を嘆くよりは、生を笑い飛ばすほうが人間的なのである。」
(121頁)
という言葉は、とても共感させられた。
また、引用されている、
「誰かに起こりうることは、誰にでも起こりうる」
というプブリウスのことばは、以前、旧訳の方でも読んでとても感銘を受けたし、大きな影響を受けたことばだったけれど、あらためてそのとおりと思った。
また、人は、
「「精神を恃み、禍福いずれにも心構えて」いなければならず、生の創造者でなくてはならない。」
(149頁)
「自然は自分という一個人をすべての人に恵与し、すべての人を自分という一個人に恵与してくれたのだ。」
(174頁)
「英知とは、自然に悖らないこと、自然の理に従い、自然を範として、自己を形成することなのである。」
(139頁)
などなどのメッセージも、本当にそのとおりと思う。
「生の一日たりとりも黒日とせぬよう」
つまり、どんな日も、自らの精神力によって、善い一日としていくことこそ、賢者のなすべきこと、というメッセージも、本当にそのとおりと思った。
最近、セネカの著作集が出たようだけれど、きちんと気を入れて読んでみようかなぁ。
セネカとキケロとマルクス・アウレリウスは、ローマの最良の精神として、人生の伴として繰り返し読むべき本だなあとあらためて思った。