小飼弾 「働かざるもの、飢えるべからず」

働かざるもの、飢えるべからず。

働かざるもの、飢えるべからず。


面白かった。

著者の小飼さんは、この本の中で、遺産相続税を100%にすること、つまり「社会相続」を提唱し、それを原資にしてベーシック・インカムを樹立するように提言している。
日本で一年あたり80兆円が遺産相続されているそうで、それをもし国民に均等に配ると、ひとりあたり毎月5〜6万円になるそうである。

そのこと自体の是非は別にして、小飼さんが付随的に述べていることは興味深いことが多かった。

たとえば、貧困問題とは、社会の血行不良の問題であり、本当は多くの人が購買力がきちんとある方が消費は増える、消費を活発にするためにも、金のめぐりを良くする、還流を良くする、つまり「弾流社会」が必要である、

ということや、

一世帯あたりの収入の総合計を世帯の人数で割って、その一人あたりの収入に所得税をかけるようにすれば、三世代同居などを促進することになる、という提言は興味深かった。

「一人一人が大事な公共財」

だという風に意識を転換し、その公共財にお金を送り込むという観点からのベーシック・インカムの提言や、

今の日本は社会保障費に累進性がないために、本当はきちんと累進課税が機能していない、という指摘も面白かった。

また、スウェーデンは税金も重いがほとんどが再分配に使われるのに対し、日本は税金の中で再分配に回される率がスウェーデンより低いので、実際は国民の負担は日本の方が重い、という指摘も興味深かった。

ただ、いかんせん、私は「社会相続」という考えにはかなり疑問がある。
相続税を一定程度重くすることには賛成しないわけではないが、100%というのはかなり難しいし、人間の多くが自分のためだけでなく子どもに楽をさせたいと思うからこそ努力する生き物であることを考えれば、一定分の相続は当然認められてしかるべきと思う。

ただ、ベーシック・インカムそのものは、かなり興味深い制度で、もっと真剣に議論されていいものかもしれない。
否定する人も多いかもしれないが、歴史的に見た場合、ローマ帝国インカ帝国はある意味ベーシック・インカムの国だったわけだし、江戸時代の武士というのもベーシック・インカムの保障され人々だったと言えるかもしれない。
必ずしもベーシック・インカムがあると人間が堕落するとは限らないし、社会は一定の安定や繁栄を享受しうるかもしれないし、ある意味人間の能力はより開花しうるかもしれない。

また、付随的に述べられていることの中で、

幸福の定義を「昨日の自分にできなかったことが、今日の自分にできるようになること」と定義しなおすべき、

という話や、

「明日死ぬとしたら、今日は何をするだろう」

という言葉は、印象深かった。

後半のスマナサーラ長老と著者の対談も、面白かった。
長老が注意深く、ベーシック・インカムに賛成するとも反対するとも言わず、ベーシック・インカムの制度ができたらできたで怠惰などの問題が生じうるだろうと指摘しているのは興味深かった。
ただ、仏教の観点から、人間にはベーシック・ニーズがあり、それは満たされるべきだと述べているのは興味深かった。

さらっと読めるので、読んでみるのもいいかもしれない一冊。