- 作者: 小泉純一郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1997/09/26
- メディア: 単行本
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厚生大臣時代の小泉さんが書いた本で、けっこう面白かった。
「官は民の補完」という考えや、
国民皆保険制度の維持のために、自己負担率を上げる医療保険制度改革の必要性、
その頃はあまりまだ他に言う人はなく、小泉さんが言い始めることで脚光を浴び始めた郵政民営化論、
などなどが率直に論じてあり、面白かった。
泉井疑惑や岡光事件での対応も、少しだけだが、小泉さんなりの言い分が記されてあった。
首都移転の必要も述べていて、田中角栄の列島改造の頃に首都を移転する先見の明があったら、ということを述べていたのもけっこう面白かった。
あと、本土のわがままを少しずつ取り除き、沖縄の負担を軽減する必要があるとはっきり述べていた。
政治は一過性ではダメということも述べられていた。
言っていることは、それぞれ興味深いし、納得するところもある。
ただ、その後、小泉さんが政権をとってから、あんなに長期政権だったのに、どこまできちんとできたかは、きちんと検証されるべきだろう。
特に、沖縄の負担軽減については、小泉さんの政権時代も、そしてその後の自民党も、どこまで真面目に取り組んできたか、鳩山民主党政権を批判する前に、きちんと検証されるべきことかもしれない。
首都移転についても、あまり本気ではなかったのではないかとも思える。
ただ、読んでいて感じたのだけれど、人からどう思われようとあまり気にせず、信念をはっきり主張するタフな精神の持ち主だなぁとは思った。
少なくとも、そう思わせるのは巧みということだろう。
実際、はじめは誰も本気にせず、ほとんど言う人もいなかった郵政民営化を一人で主張し続け、あそこまで持っていったのだから、郵政民営化自体の是非はともかくとして、ある種のすごさはある。
暴論、青臭い議論と言われようと、人からなんと言われようと、自分の信念を貫き、主張し続けるタフさが政治家には必要で、そういうタフさを持った人物では、小泉さんはあったのかもしれない。
その点、鳩山さんは、普天間基地県外移転を、暴論と言われようが青論と言われようが、貫けばそれなりに何か成果や周囲の状況を変えることもできたかもしれないが、いかんせん精神のタフさや信念が足りなかったのかもしれない。
もちろん、どのようなテーマに挑み、どのような時期にどうやってそれを提起し取り組むかというのも、政治家には大事な選択であり、その選択はかなりの程度、直感や勘にも基づくのかもしれない。
小泉さんは、その勘や直感がすぐれていたのだろう。
この本の中で、
「直感とは経験の集積」
ということが言われていて、なるほどーっと思った。
また、この本の最後の方では、ジンバブエのムガベの無礼な態度に起こって、会談をとりやめた厚生大臣時代の小泉さんのエピソードが紹介されていて、面白かった。
そのこと自体は、私も小泉さんの選択は正しいと思うし、立派とも思う。
ただ、その後の十年以上経った時に、アフリカへの中国の資源戦略の成功を思うとき、小泉さん一人の責任ではないが、日本はこの十年、アフリカにどれだけきちんとした戦略を持って取り組めたかということは、いささか疑問に思われたし、きちんと検証すべきことではないかと思われた。
いろいろ考えさせられる一冊だった。