野田総理に期待したいこと 昨日のTPP交渉参加の記者会見を聴いて

昨日の記者会見で、野田さんはTPPへの交渉参加とともに、


・医療制度の維持
・農村の維持
・中間層に軸足を定めること、


の三つを明言した。


問題は、この三つの具体策をきちんと明確に国民に説明し、それらが抽象的なスローガンではないかを示せるかどうかにあるのだろう。


また、これらが必須の条件であることをきちんと提起し、もしTPP交渉参加をしても、もしこれらの三つの条件で日本の国民の利益に合致しないならば、交渉途中での参加離脱を明言することも大事と思う。
そうすれば、日本国民の多くももっと安心するだろう。


まだそんなに日にちが経っていないから仕方がないが、野田さんはもっと自身のブログを活用して政策や理念について情報発信すれば良いと思う。
菅さんはけっこう率直に政策についてブログで語っていた。
マスコミのフィルターを通さない、首相のメッセージを待っている人はけっこう多いと思う。


さらに、菅さんがやったように、ネット配信のオープン懇談会を野田さんもやればいい。
リアルタイムの配信のネット動画でオープン懇をやったのは菅さんが初めてだったが、野田さんもそれを受け継げばいい。


野田さんは、国会では確かに頑張って多くのことを語っているし、それを国民が聴く努力も必要なのだろうけれど、国会とはまた別に、直接国民に語りかけることをもっと行うことも大事だと思う。
小泉さんはそれが上手だったし、菅さんもけっこう努力はしていた。
TPPほどの問題ならなおさらだ。


55年体制下での首相は、さほど国民に直接語りかけなくても良かったかもしれない。
しかし、今の時代でリーダーシップを発揮するには、国民に直接語りかけることが必要。
小泉さんも菅さんも、直接国民に語りかけた。
是非は別にして、郵政も脱原発もそれによって大きく動いた。


医療制度をどうするのか、農村をどう維持するのか、どう中間層を維持再建するのか。
この三つで、野田さんは具体的にもっと直接国民に語りかけて欲しい。
それができれば、必ず一定の層はついてくると思う。
逆に、それができなければ、今後はなかなか難しくなってくるのではなかろうか。


医療制度については、混合診療国民皆保険をこれからどのようにTPPの中で折り合わせていくのか、日本の医療が今後どうあるべきなのか、積極的に野田政権から情報とビジョンを発信して欲しい。
日本の医療制度の改革は、諸般の事情からもともと必要だったと思う。
しかし、TPPがそのための改革と合致するとは限らない。
日本の医療制度にとって必要な、患者本位の視点からの内発的な改革案や哲学の確立がまずなされて、その上で、TPPとの兼ね合いが論じられるべきだ。


また、農業については、戸別所得補償と関税の問題を区別して、きちんと丁寧に論じるべきだと思う。
時折、この問題を混同して論じている反TPP論者がいるが、関税の引き下げ、あるいは撤廃をしても、戸別所得補償を強力に推進したり、共通農業政策を工夫するという手もありうる。
また、六次産業としてどう農業を強化するかについて、菅政権はビジョン発信に努めようとしていたが、野田政権も、今後それらをさらに工夫しないと、製造業か農業かという不毛な二項対立からなかなか脱却できないことが危惧される。


また、中間層維持のための具体的なビジョンと政策を、野田さんはもちろん今までも努力はしているのだろうけれど、もっと国民に直接わかりやすく語りかけ説明する必要があるだろう。
菅・与謝野路線も、中間層維持のための政策を目指しながら、いまいち理解されずに終わってしまった。
税と社会保障について、中間層維持のためにそれらがなる根拠とビジョンを示し、自民党政権時との違いを示さない事には、単なる増税のイメージばかりがついて国民はついてこないかもしれない。


さらに、菅政権時の「横浜ビジョン」に沿って、環太平洋の緊密な連携を目指すことの意義、さらには環太平洋の文明を新たに創造するぐらいのビジョンを示さないことには、本当の意味の「第三の開国」を国民が理解することも、ビジョンを共有することも難しく、内向きの力に引っ張られて野田政権も短命に終わってしまう危険性があると思う。


まだ菅政権だった頃、宇沢弘文さんらが、「安政の開国」と「敗戦」は外部から押し付けられたものなのに、菅さんが良い意味で「開国」と述べていると批判していた。
だが、それは違うと私は思う。
福沢諭吉丸山真男のように、外圧としてではなく、自らの意志で開国を選びとった人もいた。
それらの人がその後の日本を創った。
TPPの是非は置くとして、もし仮に、第三の開国として受け入れるのであれば、井伊直弼的な、単なる外圧によってやむをえなく受け入れるという開国ではなく、福沢諭吉のような、積極的に自ら引き受けて打って出る開国でなくてはなるまい。
仮にTPPを拒否するとしても、その構えは必要となるだろう。


野田政権が今までの安倍政権以後の政権と異なり、長期政権となるためには、井伊直弼的開国ではない、積極的なビジョンと哲学をどれだけ打ち立て、発信できるかどうかにもかかっているのではないか。


鳩山政権の愚劣な失敗と、菅政権の悲劇的な失脚のあとで、もう民主党政権には、そして日本にも、あんまり後がないことを考えれば、なんとか野田政権には単なる安全運転ではない、本当のリーダーシップを発揮して、この難局において日本を束ねて欲しい。


それには、


・医療制度の維持
・農村の維持
・中間層に軸足を定めること、


という、野田さん自身が昨日あげた、この三つの問題について、直接国民に説得力をもって語りかけることにひとえにあるという意識を、強烈に持って欲しいものだ。


さらに、アメリカとの兼ね合いではっきり言うことができないのかもしれないけれど、野田さんがTPPの交渉途中での離脱を明言しないのは、遺憾である。
藤村さんや前原さんや岡田さんも、条件が呑めないならば途中離脱はありえると言っている。
野田さんも言っていいはずだ。


いかなる場合にTPPを交渉離脱するのか、その呑めない部分、なんとしてもこれだけは譲れないという部分を、はっきり国民に発信した方が国民も安心できるのではなかろうか。医療分野で譲らないという条件を明確にすれば、安心する国民も多いと思う。


日本は超大国ではない。
しかし、超大国なんてものは、この世界に、アメリカ・中国・ロシアの三カ国ぐらいだろう。
超大国を除けば、日本は大国であることは間違いない。
経済力も、人口も、世界屈指だ。驕る必要はないが、べつに卑屈になる必要もない。自然に大国として堂々と振る舞えばいい。


したがって、TPPについても、大国として堂々と、是々非々で臨めばいいと思う。アメリカに過剰に従う必要も、交渉参加前から過剰に閉じこもる必要も、両方ともない。交渉次第で参加するかどうか決め、TPPのありようも日本にとっての要求をどんどん言えばいい。


野田さんには、大国の指導者としての矜持を持って、国民にも、交渉相手国にも、堂々と言うべきことを言い、率直に語りかけて欲しいと思う。