大沢正道 「人類はなぜ戦争を繰り返すのか」


いやぁ〜、面白かった。

まさか、こんなに読み甲斐のある一冊とは思わなかった。

著者は、戦争についての長い人類の歴史を簡潔にまとめながら、第二次大戦後にともすれば盛んになった戦争への過度に倫理的な判断の持こみや否定を批判し、とても面白い提起をこの本で試みている。

著者が言うには、戦争とは一万年の人類とともにある文明の制度であり、国家間の紛争解決の最終手段であり、しばしば新しい秩序の生みの親となるという。

そして、古代における帝国戦争、中世におけるゲーム感覚の封建戦争、16世紀以降の植民地戦争、アメリカ独立戦争フランス革命以降の国民戦争、第一次大戦以後の全体戦争について、具体的な事例に即しながら振り返り、その意義や問題点を語っている。
しばしばその指摘や着眼点はとても非凡で、それをさらっと簡潔に書いているからすごいと思う。

著者が言うには、十字軍や植民地戦争においては、しばしば「理念戦争」の様相が見られたが、それが戦争を必要以上に残虐にし、かつ長期化させてきたという。

さらに、第一次大戦や第二次大戦は「理念戦争」になってしまったがために、かくも悲惨なものになったと指摘する。

戦争を善悪で語り論じることがいかに危険か、無用な戦争の長期化や悲惨さを招くかを事例に即しながら語る著者の意見は、極めて傾聴に値すると思う。

また、16世紀以降の欧米による植民地戦争がいかに非白人にとって残酷で非道なものだったか、それをはねかえしたマクタン島のラプ・ラプや、日露戦争大東亜戦争の日本が、いかに大きな意義があったかを指摘していることも、とても興味深かった。

最終的に著者が主張しているのは、当面降りかかる火の粉を払う軍事力を持つことと、一万年に及ぶ戦争の歴史に学んで「戦争のない」世界などという夢をきっぱり捨て、「戦争と共存する世界」をふたたび模索すること、の二つである。
なんとも暗澹たる気持ちになるが、たしかにそれが一番戦争の災厄を最小限にとどめるために大事な心構えかもしれない。

著者は、石川三四郎についての著作もあり、アナキズムの造詣の深い人物。
決して凡百の軍事マニアや戦争オタクや右派の主張とは違う、冷静に客観的にイデオロギーにこだわらずに人類の戦争の歴史を眺めた深みある著述だと思う。

戦争と平和について考える多くの人に読んでもらいたい一冊と思う。