- 作者: 平川祐弘
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/02
- メディア: ハードカバー
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硫黄島の戦いにおいて、最後に死を目前にして、アメリカのルーズヴェルト大統領に手紙を書き綴った海軍少将・市丸利之助の評伝。
市丸少将は、人格者で、部下をかわいがり、家族を愛し、短歌をよく詠んだ、当時の軍人にはめずらしいタイプだったらしい。
その市丸少将が書いた手紙は、単純な戦後の史観からは読み解けない、さまざまな意味とメッセージのこもったものだと、この本を読んでいて思った。
著者の、
「日の単位で測るなら、ハワイを奇襲攻撃した日本に非がある。
月の単位で計るなら、ハル・ノートは明らかに不当な挑発である。
だが年の単位で測るなら、軍国日本の行動がすべて正しかったとはよもや言えまい。
しかし世紀の単位で測るなら、白人優位の世界秩序に対する日本を指導者とする「反帝国主義的帝国主義」の戦争ははたして一方的に断罪されるべきものなのか。」
(124頁)
という言葉は、あの戦争について、蓋し名言と思う。
あの戦争を美化もせず、かといってステレオタイプに断罪しないためには、まずきちんと先人の言葉と事蹟に謙虚に耳を傾け、先人の思いを汲み取ることなのだと思う。
そうすれば、きっと、自国の先人に感謝しその名誉を尊びつつ、平和の大切も知り、平和を願う気持ちが育まれるのではないか。
ステレオタイプな断罪や、過度の美化は、そうした適切な名誉と平和への感情をどちらも阻害すると思う。
著者の、
「しかしその平和を尊ぶ気持と名誉を重んずる気持は両立するものと信ずる。」
(142頁)
というメッセージには全く同感させられた。
心ある日本人は、市丸少将や栗林中将の生き様には、今なお深く学ぶべきと思う。
そうすればきっと、本当の名誉も、平和を願う気持ちも、涵養されると思う。
良い一冊だった。