主語が省かれていたことによる単なる誤解

原発周囲10年住めないとの首相発言報道、官房長官が否定】
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-20611520110414



日本語は、英語などと異なり、主語を省くことのできる言語である。
今回のこの件は、主語が省かれた場合、時に誤解が生じるという事例を示しているものだと思う。

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 松本健一内閣官房参与が13日、菅直人首相と会った後に記者団に語った内容の要旨は次の通り。
 【1度目の説明】
 (福島第1原発から)放射能が漏れ続け、土地が汚染され続けると、復興をそこで考えることはできない。そこの人々は当面戻ることができないので、新しい都市を内陸部につくって、5万人とか10万人とかの規模のエコタウンをつくるという復興の方向があるだろうと(首相に)申し上げた。
 原発の周囲30キロあたり、場合によっては飯舘村のように30キロ以上のところもあるが、そこには当面住めないだろう。10年住めないのか、20年住めないのか、ということになってくる。そういう人々を住まわせる都市を、エコタウンを考えなければならないということを(首相は)言っていた。
 その場合には、市の中心部はドイツの田園都市をモデルにしながら再建を考えなければならないということも言っていた。岩手県陸前高田市には1本だけ残った松がある。ああいうものも復興の元気を出す力にしたいともおっしゃった。
 【2度目の説明】
 (「20年住めない」との発言は)私の発言だ。首相は私と同じように臆測(認識)しているかもしれないが、首相は言っていないということだ。首相から「俺はそういうことは言ってないよ」と電話があった。エコタウンについては、首相はその方向性だと言っている。(2011/04/13-19:39)
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時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011041300869


このカッコ内の(首相)というのが問題である。
本来の松本さんの言葉には要するに主語がない。
勝手に記者が主語を首相だと受け取っただけだ。

松本さん自身が、はっきりと、「私の発言だ」、つまり、

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 原発の周囲30キロあたり、場合によっては飯舘村のように30キロ以上のところもあるが、そこには当面住めないだろう。10年住めないのか、20年住めないのか、ということになってくる。そういう人々を住まわせる都市を、エコタウンを考えなければならないということを言っていた。
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という発言の主語は自分であって、首相ではないと明言している。

「言っていた」の主語は、松本さんであり、菅首相ではなかったというわけである。

どこにも菅首相が「10年住めないのか、20年住めない」といった証拠はない。
そもそも松本さん自身が最初の発言で主語を省いて言った表現を、二度目の会見では主語の取り違いだと自ら指摘している。

それなのに、菅首相が「10年、20年住めない」と言ったと主張している人々は、いったい何を根拠にそのように言っているのだろう。

根拠があるならばともかく、根拠がない状況で、かつ菅首相本人も、松本さん自身も違うと言っているのに、主語の取り違いから生じた今回の騒動で、不必要に首相を攻撃している人々の態度には、疑問を持たざるを得ない。

大事なことは、冷静さと理性である。
根拠に基づいて何かを論じ、根拠を問うことは大事だが、根拠のないところで悪意や悪罵をつのらせるのは、百害あって一利ないのではないだろうか。