村山槐多  「いのり」

村山槐多  「いのり」 

 神よ、神よ
 この夜を平安にすごさしめたまへ
 われをしてこのまま
 この腕のまま
 この心のまま
 この夜を越させて下さい
 あす一日
 このままに置いて下さい
 描きかけの画を
 明日も続けることのできますように

 神よ
 いましばらく私を生かしておいて下さい
 私は一日の生のために
 女に生涯ふれるなといわれれば
 その言葉にも従いましょう
 生きているというそのことだけでも
 いかなるクレオパトラにもまさります
 生きておれば
 空が見られ
 木が見られ
 画が描ける
 明日もこの写生を続けられる