詩 リンカーン

詩 リンカーン


枕もない家に育ち、若い頃は自分がつくったわけでもない借金で始終苦しんだ。
何度も選挙に落選し、全力を尽くしても敗れることが多かった。


にもかかわらず、いつもより深くなり、より大きくなった。


南北戦争のさなか、自分の子どもが病気で死んだ。
嘆きの淵から再び立ち上がり、奴隷制廃止と内戦の終結のためにますます力を尽くした。


自分の心の中で、いつも雑草を抜き、花を植えた。
善いことをすると善い気分になり、悪いことをすると悪い気分になる、それが自分の宗教だと言った。


道徳の力と言葉の力だけで、庶民の子から大統領になった。
アメリカを蝕む奴隷制を廃止し、未曾有の内戦と国家分裂の危機を乗り越えた。


リンカーンを見ていると、人間は環境ではなく、自分の努力次第だと教わる。


いかなる思想家や哲学者たちの山のような書物も、
リンカーンゲティスバーグでの言葉ほどデモクラシーを現わしはしない。


舜や禹がどのような人だったかは写真もないけれど、
私たちはたしかにリンカーンは写真で見ることができる。


朝鮮学校無償化適用除外 これでいいのだろうか?

「朝鮮高級学校、授業料無償化適用外に…文科省
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20130221-OYT8T00279.htm

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文部科学省は20日、日本の高校にあたる「朝鮮高級学校」を高校授業料の無償化適用外とする改正省令を施行するとともに、学校側に不指定処分を通知した。
 同省は、不指定処分の理由として、高校授業料無償化法の「適正な学校運営」に適合しないことを挙げている。文科省によると、不指定となったのは、10都道府県の10校で、生徒数1700〜1800人。無償化適用の場合、授業料分として年約2億数千万円の就学支援金が支給される。
 民主党政権では適用の審査を続けていたが、結論を先送りしていた。下村文部科学相は「(朝鮮学校は)朝鮮総連の影響下にある学校。日本の教育制度のもとで教育をすればすぐに適用になる」としている。
(2013年2月21日 読売新聞)
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安倍政権になってから、朝鮮学校への無償化適用除外が決定された。


これでいいのだろうか?


昨年の九月、野田政権は、国際人権規約A(社会権規約)の十三条二項のbcへの留保を撤回した。


「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について(外務省HP)」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html


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第13条2
(b)種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は,すべての適当な方法により,特に,無償教育の漸進的な導入により,一般的に利用可能であり,かつ,すべての者に対して機会が与えられるものとすること。
(c)高等教育は,すべての適当な方法により,特に,無償教育の漸進的な導入により,能力に応じ,すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
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この箇所は、長年の間、日本とマダガスカルのみが留保していた箇所で、やっと日本も世界の文明国の大勢に従ったわけだが、当然、この国際人権規約を批准した以上、日本はいまはこの条約に従わねばならない。
日本国憲法九十八条は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と明確に規定してあり、批准した国際法規は実行しないと憲法違反となる。


ちなみに、国際人権規約A規約の第二条二項は、


「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」


と定めている。
したがって、この条文も、批准している以上日本は必ず実行しなければならない。


また、子どもの権利条約の第二条は、以下のように定めている。


「第2条
1、締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する。
2、締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。」


子どもの権利条約も日本は批准している。
子どもの権利条約は、一条に定めるとおり、十八歳未満の者を対象としている。


朝鮮学校を高校無償化の対象とすることには、日本の国民感情としては反発する人も多いのはよくわかる。


しかし、問題は、感情論ではなく、国際法憲法と法律によって公正かどうかである。

安倍さんの訪米でのコメントへの違和感


今回の安倍さんの訪米後のコメントで、一番違和感があるのは、以下の言葉。

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安倍首相は会見で「この3年間で著しく損なわれた日米の絆と信頼を取り戻し、日米同盟が完全に復活した」と胸を張った。
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http://news24.jp/articles/2013/02/23/04223653.html


いまいち意味がよくわからない。
野田政権も日米協力イニシアティブなど発表していたし、もともと日米同盟は強い絆だったので「復活」も何も。


安倍さんは、やたらと民主党政権で日米同盟がガタガタになったというが、あれは何かの思い込みではなかろうか。
菅政権の時の311後のアメリカの協力や、野田政権のもとでの日米協力イニシアティブなど、もともと日米同盟は強固なものだ。
鳩山さんの時にゴタゴタがあったのは事実だがとっくの昔の事。


自民党が野党の時に、与党を攻撃するレトリックとして、日米同盟を最重要視し、多少その中の是正を図る民主党を攻撃するのは、それはそれで自民党としてはありえる戦略だったろう。
しかし、レトリックを本気で思いこんでいるならば、一般大衆とあまりレベルが変わらない。
もはや政権与党なのだから、このようにあまりにも事実とかけ離れたレトリックばかりを、しかもアメリカで言うことは、極めて疑問である。


こんなことで、本当にTPPで一部品目について関税撤廃を回避できるのだろうか。
もし安倍さんが本当にそれを実現しようとしたら、より一層アメリカに忠勤を励む自民党の政治家から葬り去られて、安倍さんが言う「この3年間」にこれからの安倍政権の日々もカウントされることになるかもしれない。
いや、やはり安倍さんは、TPPでは聖域なき関税撤廃を実現し、アメリカに忠義一筋に励むのだろう。


TPPについては賛否両論あり、賛成論者にもそれはそれなりに理由と言い分はある。
それはそれでいいのだが、この前の選挙の時にせっせと自民党に忠義を励み、この自民党の圧勝の大きな土台となったJAや農家の方々、自分で墓穴を掘ったと今は少しずつ気付いているだろうか。

吹田隆道 「ブッダとは誰か」

ブッダとは誰か

ブッダとは誰か


文献学、つまり文献を精緻に考証することによって最も古い文献から釈尊の姿を描こうとしてあり、面白かった。


ビンビサーラ王が釈尊にはじめて会う時も、同盟締結を釈迦族で目指していたのではないか、また釈尊がスパイではないかと疑っていた、それでわざわざ王自ら会おうとした、という動機が推察してあり、たしかにそう考えるとリアルな感じがして面白かった。


また、ラーフラ釈尊の出家の六年後に生れたという伝承があるそうで、これも興味深かった。


個人的にとても興味深かったのは、ジル・ボルト・テイラーの『奇跡の脳』の話だった。
左脳の機能が停止した著者は、右脳だけになった時に、あらゆる生命と自分との垣根が消えたような、不思議な体験をしたそうで、あたかも「ニルヴァーナ」のようだったそうである。
ぜひその本も読んでみたいと思った。


あと、オープン・キャノンとクローズド・キャノンという言葉がとても興味深かった。
仏教は閉じられた経典でなく、開かれて後世も改変可能なオープン・キャノンだったから、膨大な大乗経典が生じた、というのはとても面白い視点と思う。
仏典の素晴らしいところは、オープン・キャノンなところかもしれない。


般舟三昧経を引用して、夜空の星空の星のように、無数のブッダがこの宇宙にはいる、ということが書かれている箇所は、読んでいて、本当に仏教の最も面白いところであり、オープン・キャノンであることの最大の理由はそこにあるのかも、とあらためて思った。


とてもシンプルにわかりやすく書かれているので、歴史や文献の問題として仏陀に興味がある人には、良い一冊と思う。

絵本 「ヘンリー・ブラウンの誕生日」

ヘンリー・ブラウンの誕生日

ヘンリー・ブラウンの誕生日


ヘンリー・ブラウンは、19世紀の実在の人物。
アメリカの南部の黒人奴隷に生れる。
ある時、主人から他の主人に譲渡されたので、親から引き離されて遠いタバコ工場で働くことになる。
ある時、同じ黒人の若い女性と町で出会い、恋をして、主人の許しを得て結婚する。
しかし、ある時、主人が妻と子どもたちを、ヘンリー・ブラウンがタバコ工場で働いている間に売り払われ、遠くに連れ去られてしまう。


もう嫌だ、自由が欲しい、と考えたヘンリー・ブラウンは、他の人の協力も得て、箱の中に詰めてもらい、北部の自由州に発送してもらった。
もし見つかれば、当然逃亡を企てたということで罰される。


箱の中で息を殺して二十七時間の間過ごし、船と汽車で運ばれた。
その間、頭が下になった時があり、血が頭にのぼってずきずき痛んだそうである。
しかし、無事に北部に届けられ、箱があけられて、自由の身となった。


このヘンリー・ブラウンの逃避行については、当時新聞でとりあげられて、ボックスというニックネームがつけられ、一躍有名になり、自伝も書いたそうである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Henry_Box_Brown


この絵本は、ヘンリー・ブラウンのことを、わかりやすくリアルな絵で描いてあり、良い一冊だった。
黒人奴隷制がどんなにひどいものだったか、そこから逃げるために、当時の人がどれほど大変な思いだったか、忘れずに思い出すためにも、多くの人に一度読んで欲しい作品と思う。

長谷川櫂 「震災句集」

震災句集

震災句集


東日本大震災のあとに詠んだ俳句を集めた句集。


読みながら、はやあの頃のことを忘れて、また原発推進の政策に戻りつつある今の状況が、本当にこれでいいのかとあらためて思われた。


「焼け焦げの 原発並ぶ 彼岸かな」


「みちのくの 山河慟哭 初桜」


「みちのくの 大き嘆きの 桜かな」


「原子炉の 赤く爛れて 行く春ぞ」


原発の 蓋あきしまま 去年今年」


私たちは、ついこの前、そして今も、この現実を目の当たりにしたというのに。


一方、この句集は、嘆きばかりではなく、前を向いた句があるところもよかった。


「葦牙(あしかび)の ごとくふたたび 国興れ」


「滅びゆく 国にはあらず 初蕨」


本当に、そう思う。
そして、そのためにも、忘れてはならないのだと思う。


「日本の 三月にあり 原発忌」

雑感 アメリカについて

その昔、小泉さんが自分のことを「根っからの親米派」と言ったことがあった。
安倍さんはそうはっきり口に出しては言わないが、たぶん小泉さんと似たようなものなのだろう。


どうも私はそういう姿を見ると、「それでいいんだろうか?」という気がしてならない。


とはいえ、自分の身を振り返ってみたら、自分も案外と「根っからの親米派」なのかもしれない。
アメリカの歴史や文学はかなり好きな方だ。
オバマさんも好きである。


自分を棚に上げて、小泉さんや安倍さんに違和感を持つのは、あんまりフェアではないのかもしれない。


しかし、こういうことは言えるのではないかと思う。


日本と一口に言ってもいろんな側面が日本にあるように、アメリカにもいろんな側面がある。
アメリカには良い側面もあるが、どう考えても疑問な側面もある。
アメリカの中の最良の部分を愛することと、無批判に従うことは、また別のものなのではないかということである。


安倍さんの今回の訪米の姿を見ていて、やたらと民主党の三年間を貶す姿勢といい、アメリカとうまくやることを最大の誇りのように思っている様子といい、正直、李王朝が明や清に示した態度とはこういうものだったのではないかという気がした。
事大主義、つまり大きいものにつかえる、ということが、何よりも、その根っこにあるような気がする。
どうにも、そういう姿勢というのは、疑問で仕方がない。


そもそも、本当に親米派ならば、アメリカの根本にある精神をこそ多少は学んだ方がいいのではないだろうか。
アメリカの根っこにあるのは、大英帝国に対して敢然と独立戦争を挑んだ、独立自尊の精神のはずである。
事大主義の政治家を見ても、便利とは思うだろうけれど、あんまり重要なパートナーとは思わないのではなかろうか。


現実問題として、北朝鮮や中国の脅威を考えれば、日米同盟を堅持していくことは大切なことではあろう。
なので、別にアメリカとむやみに対立した方がいいとは思わないし、協調し仲良くやっていくことは別に良いのだけれど、他国に行ってまで、別に向こうが言い出してもいないのにこの三年間で同盟がゆらいだなどというのは、あまりにも見苦しいのでもう二度とやらないで欲しいと思う。
我々は属国ではないのだから、過剰に相手の顔色をうかがう必要はない。
ごく普通に、対等の国同士が自然に付き合えば良い話であろう。


私もたぶんアメリカは好きな方だと思うけれど、自分の国の首相が独立自尊より事大主義の気風であることは、なんともはや違和感が持たれて仕方ない。