上坂冬子 「償いは済んでいる」

同著者の『巣鴨プリズン13号鉄扉』を短くわかりやすくした内容がほとんどで、若干そちらには載っていない話もあった。

写真も多く、わかりやすい叙述だった。

ただ、上坂冬子さんの主観や意見が、「償いは〜」では前面に出されている。
「13号鉄扉」がノンフィクションに徹していたのと、若干そこが異なる。

また、「13号鉄扉」で取り上げられていた朝鮮半島出身のBC級戦犯の話もこちらには出てこない。

BC級戦犯1061名の戦後になってからの死刑、および本人や遺族の筆舌に尽くしがたい受難を思えば、日本の戦後補償はすでに終わっている、というのが本書での著者の主張なのだと思う。

心情としてわかる部分もあるが、若干問題を整理した方が良い部分も多いと思う。

著者自身が言う通り、いわゆる戦犯裁判は先の大戦戦勝国と日本との間に行われたものであり、韓国や北朝鮮が関わっていないものだったこと、それゆえにその狭間で著者自身が「13号鉄扉」であげていた朝鮮半島出身のBC級戦犯の人々などの犠牲者が出て、そのことについて十分な歴史的な解決が図られてこなかったことが、戦後多くの時間が流れても未だに難しい問題が存在していることの一つの原因なのではないか。

BC級戦犯とされた人々のことを記憶にとどめるためには、本書も有益な書物だが、最初と最後に記されている著者の主張については、読者は多角的な観点からよくよく検討することが必要なのかもしれない。