ヴィーゼル 「夜明け」

夜明け (1971年)

夜明け (1971年)


とても重い作品だったが、心に残る作品だった。


『夜明け』はヴィーゼルの自伝的三部作の第二部で、第一部の『夜』はホロコーストの過酷な体験が描かれ、主人公はそこで家族をすべて失いながら、自分は生き残る。
この第二部では、生き残ったまだ少年の主人公が、当時はまだ独立しておらずイギリスの統治下にあったイスラエルの地に渡り、独立運動に身を投じている。


イギリスからの独立のため、ユダヤ人の過激な独立運動組織は、武装闘争を繰り広げていた。
その中で、ある時、仲間の一人が捕まり、死刑を宣告される。
組織はイギリスに対抗するために、イギリスの軍人を一人誘拐して人質にし、もし仲間が死刑執行されれば人質を殺害すると宣言する。
しかし、イギリス政府は、脅かしには屈しないと述べて、死刑を執行する。


主人公は、組織から、その人質の殺害を命じられる。


主人公は、人を一人殺すということに、思い悩む。
もうすでに死んでいるはずの自分の父や母や友人たちの姿が幻となって現れて、本当に人を殺すのかと尋ねてくる。
僕を裁くのか?とそれらの亡霊に問うと、裁きはしない、しかしお前は私たちの総和だ、お前がすることは、私たちもすることになるのだ、ということを語る。


主人公は、仲間たちとしばらく雑談し、その中でホロコーストの過酷な体験なども話す。


自分が今から殺す人質が、もし憎めるような人物で、かつてのナチスのような人々で、憎むことができるならば引き金も引けると思い、決められた時刻よりも前もってその部屋に行く。


そのイギリスの軍人は、いたって優しそうで立派な人物で、主人公の年齢を聞くと、心の底から憐みをもって見つめて、自分の息子が同じ年齢だといった話をした。


しかし、時間が来たので、主人公はその軍人を射殺する。


ホロコーストでも神が死んだと思い、自分が死んだと感じていた主人公は、今度は全く立場を変えて、逆の立場で、神を殺し、そして自分も死んだと感じていた。


あまりにも重いテーマだが、なんといえばいいのだろう、イスラエルのあまりにも過酷な運命と言えばいいのだろうか、業といえばいいのだろうか、とても考えさせられる、すごい作品だった。


引き続き、第三部も読んでみたいと思う。