絵本 「父は空 母は大地」

父は空 母は大地―インディアンからの手紙

父は空 母は大地―インディアンからの手紙


1854年というから、南北戦争の少し前の時代。
アメリカ合衆国の軍隊と三年の間戦ったインディアンのスクオミッシュ族・ドゥワミッシュ族は、第十四代大統領ピアスとの和睦に応じ、もともといた土地を明け渡し、白人が指定する居留地へと移動することになった。


その時に、両部族連合の首長だったシアトル首長は、ピアス大統領に向けて、スティーブンスという人にメッセージを述べ、その場でヘンリー・スミスという人が通訳して書き留めた。


そのメッセージが、いろんな人の手を経て、以下のようなものとして伝わったらしい。


この絵本は、このシアトル首長のメッセージに、とても美しい絵が付されていて、素晴らしい絵本になっていた。
(絵の一部がこのサイトに載っていた。
http://www.aritearu.com/Influence/Native/NativeBookPhoto/FatherSkyMotherEarth.htm )


土地を追われて追い出されていくインディアンの側からの、限りない大地への愛情と、アメリカの政府が代表している近代文明への痛烈な抗議と疑問が、すばらしい英知とともに、詩のように美しく語られている。


これは、当時の合衆国大統領のみならず、私たち近代・現代の文明に染まったすべての人間に対するメッセージとして、受けとめるべきなのかもしれない。


すばらしい絵本だった。
ぜひ、多くの人に読んで欲しい。



「シアトル首長から合衆国大統領へのメッセージ」


はるかな空は 涙をぬぐい
きょうは 美しく晴れた。
あしたは 雲が大地をおおうだろう。
けれど 私の言葉は 星のように変わらない。


ワシントンの大首長が 土地を買いたいといってきた。


どうしたら空が買えるというのだろう?
そして 大地を。
わたしには わからない。
風の匂いや 水のきらめきを 
あなたはいったい どうやって買おうというのだろう?


すべて この地上にあるものは
わたしたちにとって 神聖なもの。
松の葉の いっぽん いっぽん
岸辺の砂の ひとつぶ ひとつぶ
深い森を満たす霧や 
草原になびく草の葉
葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで
すべては
わたしたちの遠い記憶のなかで
神聖に輝くもの。


わたしの体に 血がめぐるように
木々のなかを 樹液が流れている。
わたしはこの大地の一部で 
大地は わたし自身なのだ。


香りたつ花は わたしたちの姉妹。
熊や 鹿や 大鷲は わたしたちの兄弟。
岩山のけわしさも 
草原のみずみずしさも
小馬の体のぬくもりも
すべて 同じひとつの家族のものだ。


川を流れるまぶしい水は
ただの水ではない。
それは 祖父の そのまた祖父たちの血。
小川のせせらぎは 祖母の そのまた祖母たちの声。
湖の水面にゆれる ほのかな影は
わたしたちの 遠い思い出を語る。


川は わたしたちの兄弟。
渇きをいやし 
カヌーを運び
子どもたちに 惜し気もなく食べ物をあたえる。


だから 白い人よ 
どうかあなたの兄弟にするように 
川に やさしくしてほしい。


空気は すばらしいもの。
それは 
すべての生き物の命を支え
その命に 魂を吹きこむ。
生まれたばかりのわたしに
はじめての息を あたえてくれた風は
死んでいくわたしの 
最後の吐息を うけいれる風。


だから 白い人よ
どうか この大地と空気を
神聖なままに しておいてほしい。
草原の花々が甘く染めた
風の香りを かぐ場所として。


死んで 星々の間を歩くころになると
白い人は 
自分が生まれた土地のことを 忘れてしまう。
けれど 
わたしたちが 死んだ後でも
この美しい土地のことを 決して忘れはしない。
わたしたちを生んでくれた 母なる大地を。


わたしが立っている この大地は
わたしたちの祖父や祖母の灰から できている。
大地は わたしたちの命によって 豊かなのだ。


それなのに 白い人は 
母なる大地を 父なる空を
まるで 羊か 光るビーズ玉のように 
売り買いしようとする。
大地を むさぼりつくし 
後には 砂漠しか残さない。


白い人の町の景色は わたしたちの目に痛い。
白い人の町の音は わたしたちの耳に痛い。


水面を駆けぬける 風の音や
雨が洗い清めた 空の匂い
松の香りに染まった やわらかい闇のほうが 
どんなにか いいだろう。
ヨタカの さみしげな鳴き声や 
夜の池のほとりの 
カエルのおしゃべりを 聞くことができなかったら
人生にはいったい どんな意味があるというのだろう。


わたしには わからない。
白い人は なぜ 
煙を吐いて走る鉄の馬のほうが
バッファローよりも 大切なのか。
わたしたちの 命をつなぐために
その命をくれる バッファローよりも。


わたしには あなたがたの望むものが わからない。


バッファローが 殺しつくされてしまったら
野生の馬が すべて飼いならされてしまったら
いったい どうなってしまうのだろう?
聖なる森の奥深くまで 
人間の匂いがたちこめたとき
いったい なにが起こるのだろう?


獣たちが いなかったら 
人間は いったい何なのだろう?
獣たちが すべて消えてしまったら
深い魂のさみしさから 人間も死んでしまうだろう。


大地は わたしたちに属しているのではない。
わたしたちが 大地に属しているのだ。


たおやかな丘の眺めが 電線で汚されるとき
藪は どうなるのだろう? 
もう ない。 
鷲は どこにいるだろう?
もう ない。
足の速い子馬と 狩りに別れを告げるのは
どんなにか つらいことだろう。 
それは 命の歓びに満ちた暮らしの終わり。
そして 
ただ 生きのびるためだけの戦いがはじまる。


最後の赤き勇者が
荒野とともに消え去り
その記憶をとどめるものが
平原のうえを流れる雲の影だけになったとき
岸辺は 残っているだろうか。
森は 繁っているだろうか。 
わたしたちの魂の ひとかけらでも
まだ この土地に残っているだろうか。


ひとつだけ 確かなことは 
どんな人間も 赤い人も 白い人も 
わけることはできない ということ。
わたしたちは結局 おなじひとつの兄弟なのだ。
わたしが 大地の一部であるように
あなたも また この大地の一部なのだ。
大地が 
わたしたちにとって かけがえがないように
あなたがたにとっても かけがえのないものなのだ。


だから 白い人よ。
わたしたちが 
子どもたちに 伝えてきたように
あなたの子どもたちにも 伝えてほしい。
大地は わたしたちの母。
大地にふりかかることは すべて
わたしたち
大地の息子と娘たちにも ふりかかるのだと。


あらゆるものが つながっている。
わたしたちが この命の織物を織ったのではない。
わたしたちは その中の 一本の糸にすぎないのだ。


生まれたばかりの 赤ん坊が
母親の胸の鼓動を したうように
わたしたちは この大地をしたっている。
もし わたしたちが 
どうしても
ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら
どうか 白いひとよ
わたしたちが 大切にしたように
この大地を 大切にしてほしい。
美しい大地の思い出を 
受け取ったときのままの姿で
心に 刻みつけておいてほしい。
そして あなたの子どもの 
そのまた 子どもたちのために
この大地を守りつづけ 
わたしたちが愛したように 愛してほしい。
いつまでも。


どうか いつまでも。