- 作者: 天藤真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/07/21
- メディア: 文庫
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私はふだんはミステリー小説というのは読まないのだけれど、あるところで推薦されていたので手に取って読み始めたら、面白さに驚いた。
そして、読み終わった後の、なんといえばいいのだろう、率直に言って、深い感動に驚かされた。
この小説は、もちろんミステリー小説の名作でもあるのだろう。
と同時に、深くあたたかく人間を描いた、文学としての傑作でもあると思う。
ミステリーの娯楽性と人間をよく描いた文学としての、二つの要素が全く矛盾せず完璧に備わっている。
お金とは何か、国とは何か、そして人間とは何か。
そのことについて、小説を楽しみながら、読み終わると、なにがしかしっかりとした手ごたえといえばいいのだろうか、読む前とは異なる感触が残る。
主人公のおばあちゃん・柳川としの、圧倒的に面白い人格がこの小説の要なのだけれど、
「お金はものを買うためのものではない。お金は人を生かしも殺しもする”力”だ。」
という金銭哲学と、
大切なものを奪いながら、人が大変な思いをして築いたお金を簡単に巻きあげ、そのうえ大した理念も定見もない場合がある「国」とはいったい何なのか、という問いは、本当に考えさせられる。
そして、そうではあるものの、そんな「国」や「金」に翻弄されて、その前には小さな存在なのかもしれないけれど、「国」にも「金」にも関係なく、真剣におばあちゃんのことを心配し、なんとか力になろうとするごく普通の人たちの姿も、心あたたまる、最も大切なことのような気がする。
本当は一番大切なことは、居場所があって、まっとうに生きれることなのかもしれない。
そのためにこそ、「金」も「国」もあるのだろう。
著者の方は、戦時中は従軍記者として大陸をめぐり、戦後は引き揚げ者として千葉で開拓農民として御苦労されたそうである。
その体験が、これらの問いや考えの深みの背景にあるのだろう。
めったにない面白い小説を読むことができて、本当に良かった!