アテネの学堂の中の白い服の人物

ラファエロの「アテネの学堂」の中の、左の真ん中ほどの白い衣の女性のような人物は、以前ヴァチカンで実物を見た時に、とても印象に残った。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%86%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%81%AE%E5%AD%A6%E5%A0%82


もうかれこれ九年前になるけれど、ヴァチカンで実物を見た時に、その人物は格別光輝いて見えて、絵の中でもとても印象的だった。


一般的には、この絵の中では、中心のプラトンアリストテレスが注目されるし、私もそれまで写真で見た時ではそうだったのだけれど、実物の絵では、あたかもその白い服のこちらを見ている人物がこの絵の主役と思えるほど印象的だった。


誰だろう?とその時もとても不思議に思って、帰ってからわりとそうしたことに詳しい知人に聞いたが、よくわからない、という反応だった。


自分でもたぶん、その時にその人物の名前を調べたはずなのだけれど、よくわからなかったのか、あるいはその人物の名前をよく当時は知らなかったためか、あまり印象に残らず、かれこれ九年が経っていた。


そうしたら、今日はじめて気づいた。
なんと、この白い服の人物、なんとヒュパティアの絵だった・・・。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Hypatia_Raphael_Sanzio_detail.jpg


つい最近、ヒュパティアが主人公の映画「アレクサンドリア」を見て、はじめて知ったのだけれど、ヒュパティアは四世紀ごろ、キリスト教徒に襲われて非業の死を遂げた、女性の天文学者・哲学者。


そのことを知って、今日はとても心動かされ驚いた。


ラファエロは、きっと深い思い入れがあって、この絵を描いたのだろう。


それにしても、ヴァチカンにヒュパティアの絵を描くとは、ラファエロの度胸と勇気にとても驚かされた。
たとえていうならば、戦前の日本で国会議事堂の壁画に管野須賀子や伊藤野枝の絵を描くようなものだろう。
ラファエロは、ミケランジェロなどに比べれば穏健なおとなしそうなイメージがなんとなくあったのだけれど、案外ととてつもなく剛毅な精神の持ち主だったんだなぁと思った。


それにしても、人生というのは不思議なもので、その時は気になりながらよくわからず、あとでいろいろとつながってくるということがある。
アテネの学堂のあの絵の人物がヒュパティアとは、今日はひさしぶりに魂が深く揺り動かされる気がした。
人生というのは、時が経つにつれて、いろいろと面白いこともあるものだなぁとあらためて思う。