
- 作者: マイケルモーパーゴ,牧野鈴子,Michael Morpurgo,渋谷弘子
- 出版社/メーカー: 文研出版
- 発売日: 2010/12/01
- メディア: 単行本
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モーパーゴの児童小説はどれも素晴らしいけれど、これも本当に胸打たれる良い作品だった。
モーパーゴは第一次大戦や第二次大戦などについて描く作品も多くあるけれど、これはそうではなく、舞台は2001年。
その年に実際にあったイギリスの口蹄疫をめぐる物語である。
その九年後、2010年には日本の宮崎でも口蹄疫が発生し、当時かなり報道があったけれど、恥ずかしながら私はそれほど深くは認識してなかったので、この作品を読みながら、なんと痛ましい悲しい出来事だったのだろうとあらためて思わされた。
2001年のイギリスの口蹄疫の発生では、一千百万頭の家畜が殺処分になったという。
日本の2010年の口蹄疫では28万8643頭の家畜が殺処分されたそうだ。
こうした記録は、ただ数字が残るだけだけれど、モーパーゴのこの小説は、その背後に、牛や豚や羊をそれまで家族同然に愛してきた畜産農家が、どれほどの悲しみと苦しみでこの出来事を迎え、乗り越えていったかが記されている。
主人公の少女の父親は、口蹄疫の殺処分の前後の苦悩から鬱病になる。
しかし、家族や周囲の人々の支えもあり、また乗り越えていく様子が、モーパーゴらしく描かれていて心にしみた。
それにしても、モーパーゴの小説はどの作品もそうなのだけれど、私たちが見失って忘れかけてしまっている人と人との、あるいは人と動物の、細やかな愛情や優しさや繊細な感情を、なんと思い出させてくれることだろう。
その独特の文章の見事に、この作品でもあらためて感嘆させられる。
子どもが読んでもわかる文章なのに、この細やかな感覚はいったい何なのだろうと、ただただ心揺さぶられるばかり。
たぶん、モーパーゴの眼から見た時は、第一次大戦や第二次大戦と同様に、この口蹄疫による家畜の大量の殺処分は悲劇であり、それゆえに真っ向から口蹄疫と鬱病というテーマを取り上げたのだろう。
それらを全く違うものと思っていて、口蹄疫については軽く流していた自分の心の粗末さを省みさせられた。
良い作品だった。