森鴎外 「舞姫・阿部一族」

阿部一族・舞姫 (新潮文庫)

阿部一族・舞姫 (新潮文庫)

とても面白かった。


特に「かのように」はすごい小説だと思う。
っていうか、これ、戦前の日本ではかなりヤバイ内容だったろうなぁと思う。
鴎外は小説ということで巧みにごまかしているけれど、国家神道記紀神話が実は本当のものではない虚構に過ぎない、って言っているわけで、昭和初期によく発禁にならなかったなぁと思った。


また、個人的には、長い間離れ離れになっていた老夫婦が晩年にやっと一緒に暮らせるようになった「じいさんばあさん」はとても良い作品と思った。
よく歴史からこのエピソードを掘り起こして作品に残してくれたものだと思う。


また、「堺事件」を読むと、人の運命ってなんなんだろうなぁと思う。
本当に、人の生死を分けるのは偶然のようでもあるし、あの当時の不条理さというのは本当になんとも言えぬ気持になる。
しかし、その中で凛然としていた事件の当事者たちは、本当のサムライだったと思う。


「鶏」もけっこう面白かったし、「寒山拾得」もとても面白かった。

うたかたの記」の中で、マリイが言う、
「されど、人生いくばくもあらず。うれしと思ふ一弾指の間に、口張りあけて笑はずば、後にくやしくおもふ日あらむ。」と、
「今日なり、今日なり。昨日ありて何かせむ。明日も、あさても、空しき名のみ、あだなる声のみ。」
というセリフにはしびれた。
うたかたの記」は本当に名作と思う。


また、「舞姫」を高校の時以来ひさびさに読んだが、やっぱり深く心を動かされる何かがこの作品にはあると思う。


鴎外の珠玉の作品群が収録されていて、本当にお勧めしたい一冊である。


「余興」の「己(おれ)の感情は己の感情である。己の思想も己の思想である。天下に一人のそれを理解してくれる人がなくたって、己はそれに安んじなくてはならない。それに安んじて恬然としていなくてはならない。それが出来ぬとしたら、己はどうなるだろう。」というセリフも良かった。