上海の伯爵夫人

上海の伯爵夫人 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

上海の伯爵夫人 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

イシグロ・カズオが原作だそうだ。

1930年代の上海が舞台で、アメリカ人の盲目の元外交官で偏屈な主人公が、ロシアの亡命貴族の女性や、日本人のフィクサーみたいな人物や、近所のユダヤ人などと、黄昏の上海で束の間の夢を見るが、やがて日本軍の侵攻ですべてが破壊される。
けれども、恋物語としては一応ハッピーエンド、という作品だった。

真田宏之の演じるマツダという日本人は、主人公の友人でありながら、上海への日本軍の侵攻を画策するという、微妙な人物で、台頭する新しい力みたいなものを現しているのに対し、

レイフ・ファインズの演じる偏屈なアメリカ人は、外の世界に対して目を閉ざし、ひたすら芸術至上主義と黄昏の上海の最後の光芒に固執する没落を運命付けられている人間として描かれていた。

私は、なんというか、マツダよりも主人公の方に共感を感じた。
日本も、昔日はひょっとしたらマツダみたいなイメージのよく似合う勢力だったのかもしれないが、今はいつの間にやら主人公のような立場になってしまったのやもしれない。

にしても、この作品、上海が舞台なのに、主要な登場人物にひとりも中国人が登場しない。
中国人は、みんな舞台の背景みたいな感じだ。
というわけで、ひたすら(列強にとっての)古き良き時代の上海のノスタルジーという感じで、たぶん中国人が見たら反発を感じて首をかしげるのかもしれない。

とはいえ、いろんな人種の人間があれだけ一箇所にいて、political intentionが空気に張り詰めていて、黄昏の美しさがあったというところに、1930年代の上海の魅力はあったのだろう。
あの頃の上海を舞台に書けば、いくらでも物語ができるような気もする。それぐらい、不思議な街だったのだろう。

マツダのモデルが誰かと思ってネットで検索してみたら、どうも田中隆吉がモデルのようである。
里見甫か甘粕正彦かなあと私は見てて思っていたのだけれど。

あの不思議な魔都・上海を、もし日本が壊してしまわなかったら、どうなっていたのだろう。
他の人がいずれ壊したとしても、もうちょっと長く続いたかもしれないし、もったいなかったなあと思う。