スペルティアスとブリスのことば

スパルタのスペルティアスとブリスという二人の使節が、ペルシアの総督に答えて。


ペルシア総督・ヒュダルネス:
「スパルタの方々よ、そなたらは何故に王と友好を結ぶことを避けられるのか。
この私と今の私の地位を見れば明らかなように、王が役に立つ人間を重用する術を心得ておられることは、そなたらにもよく判るはずではないか。
さればそなたらにしても、もし王に従う気になれば、王はすでにそなたらが有能な人材であることをご承知であるから、お二人ともに王の御聴許を得てギリシアを支配することもできようぞ。」


この言葉に対し、スペルティアスとブリスの二人はこう答えた。

 「ヒュダルネス殿、われらに対するあなたの御忠告は片手落ちと申すものです。

御忠告くださるあなたは、なるほど一面のことは経験済みでおられるが、別の一面のことには未経験でおいでになる。

すなわち奴隷であることがどういうことかは御存知であるが、自由ということについては、それが快いものか否かを未だもって体験しておられぬのです。

しかしあなたが一度自由の味を試みられましたならば、自由のためには槍だけではない、手斧をもってでも戦えとわれらにおすすめになるに相違ありません。」

二人はヒュダルネスに上記のように答えたあと、ペルシアの都に着き、ペルシア皇帝のクセルクセスに謁見した。

その時、護衛兵たちがクセルクセスの前で二人に土下座して拝礼せよと指図し、無理にもそうさせようとした。

すると、

「たとえ護衛兵たちの手によって頭を押しつけられようと、断じてそのような振舞いはせぬ」

と二人は拒絶し、

「人間に拝礼するなどということは自分らの国の慣わしにはないことで、また自分らはそのようなことをするために来たのではない」

とあくまで主張した。


ヘロドトスの歴史の巻七の一三五、一三六節(岩波文庫だと下巻)