平治物語

平治物語 (岩波文庫)

平治物語 (岩波文庫)


先日、たまたま古本屋で手に入れて、一気に読んだ。
とても面白かった。

とてもリズミカルな名文で、古文の魅力にあらためて気づかされる気がした。
本当に流暢流麗な文章である。

印象的だったのは、なんといっても悪源太義平の圧倒的な強さである。
長生きできていればどれほどの英雄になったことか。
義平と頼朝の関係は、そういえば映画のゴッドファーザーの、ソニーとマイケルの関係に似ているのかもしれない。

しかし、源頼政が源平どちらにもつかず傍観していたのを憤り、攻撃をしかけ、それをきっかけに頼政は平家方に加担したというのは、義平の短慮だったとしか言いようがない。
やっぱり若さゆえの血気だったのだろうか。
頼政を味方にできれば、平治の乱の去就も必ずしもわからなかっただけに、敵か味方かわからない相手はなるべく敵に回さず味方につける慎慮が必要だと、平治物語を読みながらもしみじみ思った。

あと、印象的だったのは、ときどき登場しては辛辣な皮肉を述べる伊通(これみち)という人物である。
どの時代にも、どんなに周囲が物情騒然としていてもしらけていて、そして周囲を笑わせる毒舌家がいたのだなぁと思った。

あと、池禅尼が頼朝を助けたのは、若くして亡くなった自分の息子の平家盛にたまたまよく似ていたからだった、というエピソードに、なんといえばいいのか、万感こもごも感じざるを得なかった。

また、頼朝が平治の乱で落ちのびていく時や、捕まって明日をも知れぬ身だった時に、親切にしてくれた人々に対し、天下人になった後にきちんと恩に報いているエピソードも興味深かった。
天下人になるほどの人は受けた恩は忘れない義理堅さがあるものなのだろう。
その一方、受けた怨みも忘れず、父の義朝を謀殺した長田父子に対する冷酷な復讐の仕方はなんとも恐ろしいものと思った。

また、義平が処刑される時に、自分を捕まえ処刑する難波三郎に対し、雷となってお前を蹴り殺すと宣言し、後日、難波三郎が多くの人がいる前で雷に打たれて死んだという話も、なんともすさまじい話と思った。

あと、義平と頼朝にはさまれて、地味な二男の朝長のエピソードもなんとも哀れなものがあった。
朝長はあんまり登場しないけれど、平治の乱の混戦の中、太ももを矢で射ぬかれたそうである。
しかし、他のもっと重傷の部下の方を気づかいそちらを守るように父にも述べ、みずからは痛みに耐えて愚痴のひとつもこぼさなかったそうである。
そのあと、落ち延びていく途中で、父の義朝から信濃に落ち延びて源氏方の兵士をつのるように命じられ、いったんは父と分かれるが、傷が重くて信濃への山路を行くのが不可能と判断し死ぬならば父たちの近くでとすぐに引き返して来て、そのうえ足手まといにならぬように自害したというからなんとも哀れである。
頼朝や義経の兄であることを考えれば、おそらく朝長も男前の美男子だったのではないかと思われる。

平家物語も面白いけれど、平治物語も面白いなぁと本当つくづく思う。
次はそのうち、保元物語を読んでみたいと思う。