- 作者: マイケルモーパーゴ,ピーターベイリー,Michael Morpurgo,Peter Bailey,杉田七重
- 出版社/メーカー: あかね書房
- 発売日: 2012/11/01
- メディア: 単行本
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モーパーゴの作品。
イギリスの田舎の、さらに町はずれの湿地に、ペティグルーさんという一風変わった女性が住んでいる。
ペティグルーさんとひょんなきっかけで仲良くなった主人公の少年は、そこでさまざまな動物や花々とかけがえのない時間を過ごす。
しかし、その湿地に、原子力発電所の建設計画が持ち上がる。
静かな町の人の心は荒れていき、最後まで原発建設に反対していたペティグリーさんと主人公の母の声は無視されて、湿地に原発が建設されてしまう…。
「機械は完璧ではありません。」
そうきっぱりと述べ、つまらない空き地などではなく、多くの生きものが住む湿地なのだと、原発がなくなってもコンクリートの墓におおわれて永遠に使えない土地になってしまう、と述べるペティグリーさんの言葉、
「この湿地をずっと変わらず生かしておいてください」
という言葉が、心に響く。
結局、その町の原子力発電所は、数十年後には閉鎖されることになり、二百年はコンクリートにおおわれたままほったらかしにされることになった。
数年分の電力のためにこんなことをするなんて、作中で言われるように「正気の沙汰じゃない」ことだったろう。
モーパーゴならではの語り口で静かに語られるこの物語は、他のモーパーゴの作品と同様、不思議と心に残る物語だった。
訳者の方があとがきで述べているとおり、
「失ったものを取りもどすことはできなくとも、失ったものから学ぶことはできる。たぶんそこからしか、人間はよりよい未来を築けないのでしょう。失われた人の声にいま一度耳を澄まし、自分たちはどう生きていけばいいのかを考える。過去から未来に思いを馳せる」
ということが、本当に大切なのだと思う。