モーパーゴ 「発電所のねむるまち」

発電所のねむるまち

発電所のねむるまち


モーパーゴの作品。

イギリスの田舎の、さらに町はずれの湿地に、ペティグルーさんという一風変わった女性が住んでいる。

ペティグルーさんとひょんなきっかけで仲良くなった主人公の少年は、そこでさまざまな動物や花々とかけがえのない時間を過ごす。

しかし、その湿地に、原子力発電所の建設計画が持ち上がる。

静かな町の人の心は荒れていき、最後まで原発建設に反対していたペティグリーさんと主人公の母の声は無視されて、湿地に原発が建設されてしまう…。

「機械は完璧ではありません。」

そうきっぱりと述べ、つまらない空き地などではなく、多くの生きものが住む湿地なのだと、原発がなくなってもコンクリートの墓におおわれて永遠に使えない土地になってしまう、と述べるペティグリーさんの言葉、

「この湿地をずっと変わらず生かしておいてください」

という言葉が、心に響く。

結局、その町の原子力発電所は、数十年後には閉鎖されることになり、二百年はコンクリートにおおわれたままほったらかしにされることになった。
数年分の電力のためにこんなことをするなんて、作中で言われるように「正気の沙汰じゃない」ことだったろう。

モーパーゴならではの語り口で静かに語られるこの物語は、他のモーパーゴの作品と同様、不思議と心に残る物語だった。

訳者の方があとがきで述べているとおり、

「失ったものを取りもどすことはできなくとも、失ったものから学ぶことはできる。たぶんそこからしか、人間はよりよい未来を築けないのでしょう。失われた人の声にいま一度耳を澄まし、自分たちはどう生きていけばいいのかを考える。過去から未来に思いを馳せる」

ということが、本当に大切なのだと思う。