絵本 「ぞうれっしゃがやってきた」

ぞうれっしゃがやってきた (絵本ノンフィクション 23)

ぞうれっしゃがやってきた (絵本ノンフィクション 23)

名古屋の東山動物園では、戦時中、苦渋の決断を迫られた。
動物園の動物たちが、空襲で逃げ出すと危険だし、食糧も不足しているというので、殺すように命じられたからである。


虎は毒入りの肉を食べて苦しみながら死に、ライオンは毒入り肉を食べようとしないので銃殺された。
人になついていた月の輪グマは、えさがもらえると思ってよろこんで立ち上がったところを銃に打たれて死んだそうである。


園長は象だけは助けたいと思い、なんとか象だけは殺害命令が免れて、当面は生かすことがえきた。
しかし、四頭いるうちの二頭は、食糧不足と寒さからやがて死んでしまった。


二頭の象だけ、奇跡的に生き残った。
戦争が終わったあと、東京の子どもたちは象が見たいと願い、国鉄のはからいによって象を見るための列車、象列車に乗って、たくさん名古屋のこの二頭の象を見に来たそうである。


戦争というのは、人間が始めるものだが、結果として動物たちにも多大な犠牲と苦しみを負わせる。
平和に子どもたちが象を自由に見ることができるような、そういう世の中を、本当に大切にしなければと、読んでいてあらためて痛感させられる、とてもすばらしい絵本だった。